昭和35年、日本の二輪メーカーが世界を席巻していた時代。
山陰の農機メーカー・出雲産業が掲げた目標は、誰もが無謀だと笑った挑戦――
神話の国から、ルマンを制する。
農機・工作機械・産業機械まで手掛ける地方企業が、実は想像を絶する技術力を秘めていたという設定が胸を熱くし、技術者なら思わず唸る“ものづくりの矜持”が物語の芯にある。
見切り発車のように始まったルマンプロジェクトは、社長の「挑まなければ未来はない」という覚悟と、技術者たちの情熱によって少しずつ形を成していく。
そしてマシンに乗るのは、一風変わった経歴を持つ少女たち。
地方企業の挑戦に、若い才能が加わることで生まれる化学反応が爽快で、後世に語り継がれる“黄金色の伝説”へとつながっていく流れがドラマチック。
技術の可能性を信じる者たちが、神話の国から世界へ挑む――
現代の技術者こそ胸を打たれる、熱量あるモータースポーツ系ヒューマンドラマ。
現実の歴史を土台にしながら架空企業「出雲産業」と伝説のレーシングカー「IZUMO Type11」で24時間レースのル・マンの制覇を目指す本作。
すでにメーカー「IZUMO」は存在せず、現存する車は世界にわずか数台しかないものの、伝説的な扱いを受けるマシーン。
そして「出雲産業」社長の松平耕平は重い罪悪感を抱えてながらも、出雲大社で謎の老人に諭され、本格的に世界一を目指すレーシングカー開発へ乗り出す。
その設定が魅力的で、以前から個人的にル・マンに関心があったこともあり、とても好意的に読み進めることができました。
特に好きなのは、ドライバーではなく技術者の視点が大事に描かれているところです。
工業的な説明も専門的で、いっそうのリアリティを感じながら楽しむことができます。
なにより本作の魅力は男のロマン。
生まれた伝説の経緯を追いかけるところは、まるで自伝を読んでいるかのようでもあります。
まだ序盤での感想になりますが、この段階でレビューを書きたくなるほどの魅力が本作にはあります。
現在170話まで連載中という長編ではありますが、人間ドラマがふんだんに詰まった夢のある物語を引き続き楽しみたいと思います。
農業機械の技術とレーシングカーの極限性能を結びつけた、圧倒的に緻密なメカニズム描写が圧巻。
超ジュラルミン製エンジンブロック、180度V型6気筒の偶力振動、ターンフローの排気流速をあえてシジミ漁の網から着想したカーボンメッシュで解決するプロセスなど、技術的裏付けのリアリティが凄まじい。架空のマシン「IZUMO Type11」が本当に実在したかのような錯覚を抱いてしまう。いや待て、実在してないよな?
また、単なるマシンの開発劇に留まらず、背景にある学徒出陣の記憶と特攻兵器への負い目という戦争の爪痕、そして迫りくる通産省による業界再編(合併話)という時代の危機感が、主人公・松平耕平をはじめとする男たちのドラマに深い重厚感を与えている。