第16話 新たなルーティンと、友人の配慮
前回の出来事とに加え、「近寄らない方が良い」「触れるだけで叫ぶんだ」などの噂が広まり、周りへの警戒は、前よりも増していて、強い嫌悪感も感じていた。 潔癖症の悪化により、高遠蓮の学校生活は一変した。 常に二重のゴム手袋を装着し、休み時間ごとに手洗いと消毒を繰り返す彼の姿を毎日見るようになり、もはやは、クラスの中ではもはや「いつもの光景」になりつつあった。 周囲の好奇の目は、まだ残っていたが、露骨な陰口は減り、表向きは平穏を取り戻しつつあった。
しかし、蓮の友人である桜庭葵、相沢陸、高橋美桜の三人は、そんな蓮を気遣い、自分たちなりの「蓮ルール」を作って接するようになっていた。
例えば、陸は蓮の潔癖症を理解してからは、不用意に蓮の肩を叩いたり、持ち物に触れたりすることは完全に止めた。
「よお、蓮。今日の数学の宿題、難しかったな」
陸は、蓮から少し離れた場所で、笑顔で話しかける。
「俺のノート、後で見せてやるよ。もちろん、蓮の席に持って行くときは、手洗いしてからな! 俺も潔癖になった気分だよ!」
陸はそう言って明るく笑う。蓮は、陸の明るい気遣いに少しだけ微笑み、「……ありがとう」と答える。陸の配慮は、蓮にとって非常にありがたかった。
美桜も、蓮の潔癖症に合わせた気遣いを見せていた。給食の時間、美桜は自分のトレイや食器に触れる前に、必ず持参の除菌シートで軽く拭くようになった。
「美桜ちゃん、そこまでしなくても……」葵が言うと、美桜は笑って答える。
「いいの! 蓮くんと同じチームになったときとか、いつか一緒に作業することもあるかもしれないでしょ? 練習しておかないと、蓮くんに失礼だもん!」
蓮は、美桜のその配慮を知り、胸が温かくなった。自分が原因で、友人たちが不便な思いをしていることに申し訳なさも感じたが、彼らの優しさが、学校という場所での蓮の息苦しさを少しだけ和らげていた。
そして、最も蓮を支えていたのは、やはり葵だった。 彼女は蓮の隣に常に寄り添い、彼がパニックにならないように、さりげなくサポートを続けた。蓮が水道に向かうたびに、彼女は何も言わずに付き添った。
ある日の昼休み、蓮がいつものように手洗いをしていると、水道場に他の生徒はいなかった。
「最近、みんな優しいね」葵がぽつりと言う。
「……そうだね」
「蓮が身体測定の時に叫んじゃったの、みんなすごく驚いたけど、あれでみんな、蓮の潔癖がどれだけ深刻なのか分かったんだと思う。 あれは、みんなを怖がらせるためじゃなくて、蓮がそれだけ苦しいんだってことを、みんなに伝えたんだよ…。」
蓮は石鹸を泡立てながら、二重の手袋の上から手を洗い、少しだけ俯いた。自分が叫んだことは、未だに恥ずかしい記憶だ。
「怖がらせてごめん」と、心の中で呟く。
「蓮は何も悪くないんだよ。みんなが分かってくれて、よかった。」
洗い終えた蓮は、手袋の上からペーパータオルで手を拭き、二層目の手袋の上から除菌消毒をする。一連のルーチンを終えた後、彼はいつになく穏やかな表情で言った。
「……葵たちのおかげで、学校に来られてる。本当に、ありがとう」
その言葉は、蓮の心からの本音だった。
葵は蓮のその言葉に、嬉しそうに微笑んだ。 その時、チャイムが鳴り響き、昼休みが終わりを告げる。
「よし、次の授業も頑張ろうね」葵はそう言って、蓮の隣を歩き出した。
蓮の潔癖症は悪化していたが、同時に友人たちとの絆は深まっていくばかりだった。彼らは皆、蓮という個性を受け入れ、寄り添おうとしていた。 陰口とか言って、理解してくれない人も、もちろん中には居るが、ほとんどの人は、蓮を受け入れてくれるようになっていた。 蓮の世界はまだ狭かったが、その中には確かに、彼の居場所が存在していた。彼は未だに、心まで許してるのは長馴染みの葵だけだが、許してるとしても、素手で接触はリスクがあると考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます