はじまりの音

久遠紗和は、朝日が差し込む教室の片隅で

そっとピアノの音を思い浮かべていた。


鍵盤に触れた瞬間に指先を通して流れる感覚。

それだけが、世界のすべてを鮮明にしてくれる。


椿蓮は、彼女の隣の席で笑った。


「また、曲のこと考えてるのか?」


その笑顔に、紗和は思わず頬を赤くする。


「……うん、だって、まだ完成しないんだもの」


二人は、まだ中学一年生。

でも、既に誰よりも熱く音楽と向き合い、

指先から心まで震える旋律を追いかけていた。


教室の窓から射し込む光の中、

紗和は小さく息をつく。


蓮と自分が、

どこまでこの音楽の世界を駆け抜けられるのか。

それは、まだ誰にも分からなかった。

だが、鍵盤に触れるたび、紗和は確信していた。


『私たちは二人でしか紡げない旋律を持っている』


小さな音符が、

まだ静かな教室に未来への希望を描く。


それは

紗和と蓮の長く切ない物語のはじまりだった。

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約束の旋律を君に clo @pel-clo

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