ポテトチップスを食う男
ポテトチップスを食う男
昔、ここら辺に毎日ポテトチップスを食ってばかりいる奴がいた。
一度会ったことがあった。言っちゃ悪いけど油まみれだったし、異様に太っていたし、何よりずっと顔がにたーっと笑っていて気味が悪い奴だった。
「おらぁ、ポテトチップスないと生きていけねぇダァ」
この言葉があいつの口癖だった。あいつの秘密を探ろうと友達みんなで一日中見張った中、この言葉ばっかり呟いて馬鹿みたいにポテトチップスを食っていたのをよく覚えている。
どうやらポテトチップスは自家製だったらしい。なんでも秘伝の粉かなんかで美味しさを倍増させていたそうだ。
「おめぇ食うか? おらのポテトチップスは美味いぞぉー」
一度見張ったのがバレて家の中に招き入れられた時だ。断るにもその時には怖かったのか、家の中へ入ってしまい、危うくポテトチップスを食わされるところだった。
トイレに行ったふりをして、走って逃げた。
その経験から、もう俺はあいつの家には近づかないことにした。
その後あいつは、跡形もなく姿を消した。
あいつについて分かったことがある。
俺があいつの家に招かれてから、じゃがいもが大変な不作になっていたそうだ。
じゃがいもはポテトチップスの原料、ポテトチップスはあいつの大好物。あいつは日夜髪をかきむしり、家を荒らし、奇声をあげ続けたそうだ。
気色が悪い。
不作が終わったら、再びあいつはじゃがいもを仕入れ始めた。
しかし、不作終わりのじゃがいもは、変な虫が沸いていたらしい。
油で揚げる。あいつはそんな調理過程すら忘れ、ただ生のジャガイモを切って粉をかけただけで食べてしまったそうだ。
……その後、あいつを見た者は誰もいなかった。
「あー、ようやく書けたー」
俺はデスクチェアの背もたれにめいいっぱい寄りかかる。「ポテトチップスを食う男」は確かに俺の人生に存在した。それをブログに載せてみたら思った以上に高評価を得たので、慌てて最後のオチまで書いてしまった。
確かに、油まみれだったし、異様に太っていたし、何よりずっと顔がにたーっと笑っていて気味が悪いやつではあった。しかしその後の不作というのは全くの嘘。本当のことを言うとあいつは突然姿を消して、初めは死亡したんじゃないかと噂が飛び交ったりもしたが、結局忘れられていき「ポテトチップスを食う男」は記憶の中から抜け落ちた。
しかし、人間は面白い。ふと思い出した俺はあいつのことをホラー調にし、ブログでの人気を獲得したのだ。
それにしても疲れた。今日は歯磨きせずにベッドに飛び込もうかと考えていた矢先、声がした。
ズズ……。
変な音がする。何かが擦れるような……。
「うわあ!」
なんだ? 床が……ヌルヌルしている……? ポテトチップスの……油……?
「おらぁ、ポテトチップスないと生きていけねぇダァ」
「……え?」
忘れかけていたあいつの声で全身に寒気が走る。
「オメェも……そうだよなぁ?」
パソコンの光にぬらりと反射する何か。
見たくないのに、首が勝手に動いた。
それが「俺」としての最後の行動。
「俺は……俺は………………おらぁ…………ポテトチップスないと……生きていけねぇダァ」
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