大家
飛行機のフライト日は、今日からちょうど1ヶ月後。その間に、大家に聞けることは聞いておこう。
今日こそ外に出る。そう決めた昔とはおさらばだ。今はもう、決めなくても外に出られる。
コンビニだって行ける。そんな気もする。
うちの実家は、東京近くの田舎。
東京が近いからって、文明がとんでもなく発達している訳でもない。
実際に、東京出身であっても、23区内じゃないなら、一応東京出身だという程だ。
それに田舎は、汚い公衆トイレから、何十年と経ったまま、放置されて異臭を放っている。
(大家、懐かしいなぁ、小学校に上がる頃、よくスイカ持ってきてくれたよなぁ、
そのスイカ、だいたいハズレだったけど。
不味くて、大家苦笑いだったかな…たしか。)
確か大家の実家は代々続くスイカ農業の家系だった。ここ数年、土地の状態が悪くなってスイカの品質が落ちただの。今はもう、無くなってたりして。大家は次男だし、きっと長男が継いでいることだろう。
━━そんじゃ、あの事故物件行ってみようかな
毛玉が密集したスウェットに着替えて、放置した髭も剃り落とす。ここまで生えたんだから、と躊躇ってしまいそうになるのを飲み込んだのは内緒。
そうだ、せっかくなら、と、母に会うために美容室でも行こうか。と考える。
今日は妙に身体が軽い。きっとよく寝たからだろう。鏡で見る自分には、あのどう頑張っても取れなかったクマがあっさりと姿を消している。
最低限の持ち物を持って、鍵の所に手をかけ。
ガチャリ。
前まで聞くことのなかった音がようやく聞けた。
顔を出すと同時に、焼け付くほどの日差しが降り注ぎ、咄嗟に目線を下げれば、放置されていた玄関が入居した時よりも白く色褪せていた。
今なら行ける。脳内のドーパミンが、イケナイ薬の働きをしているようだ。
ガサッ
ザクッ
ガコッ。
幼稚園児が晴れた空の下を新鮮な気持ちで歩くのと同じように、自分もウキウキしてしまっている。
大の大人が浮かれてダサいのは承知の上だ。
例のアパートに着く。
1階の家らしくない倉庫のようなところが大家の部屋だ。
昔むかしのチャイム。カメラもついてない。さすがだ。
ピンポーン。
昔ながらの音に心がジーンとしてくる。
「はーい。ちょいと待ってくださーぃ」
大家か。老けたもんだな声。
━━え。
故郷 ゆりかっぴん @1590405
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