第3話
(竜、だ)
それは直感、鍾乳石の柱と一体化しているもののそこには地の上に体を横たえた翼竜がいた、黄赤色の光は竜の体から発せられている。
手の平を付けた鍾乳石の上段は前方に長く突き出た鼻であり、やや下を向き頬と曲げる首元に至るまでの間には大小様様な棘状の突起、頭上側面には対のツノもあった、下段の方は前脚なのか顎を乗せているように見えた。
視線を上に移しここへ来て初めて柱の全貌を見て愕然とする。
ぼんやりと浮かび上がる竜の輪郭は体と四肢どれをとってみても重厚で背から両脇へ伸び、今まさに翼を閉じ休もうとしている様かと思われる。体勢は美しいと感じるのに全身を覆う鱗がかなりの箇所において剥がれ光も失われて、鍾乳石越しに黒く見えた。
黄赤色と黒のコントラストは黒の方が多い、見ていると胸が熱くなる。
”我を滅する者よ、即刻立ち退け。もはや話すことはない“
言葉の端端に滲むのは、怒。
手の平から伝わったのが竜の言葉だとわかってもそれに答える力が私にはもう残っていなかった。
鍾乳石に置いた手がそれから離れる前より早く男の体は横へズレて滑ると、そのまま倒れて動かなくなった、それは立て掛けた薄い板が吹いた風に押されて倒れる程の軽い乾いた音で終わった。
「人は自分の見たい聞きたいと思う事柄のみを優先し率先して拾い上げている」
ここで久しぶりに祖父のことを思い出した。
「全てを見通すことは出来ないが民の声なき声に耳を傾けられれば少しはマシな何かになれるだろうさ。ふ、立派なことを言っているようじゃが幼子を相手に理詰めとは儂も未だ何かになれてはおらぬとみたわ」
そう言って笑っていたことをココで思い出すとは滑稽でしかない、祖父がもしここに――と考えかけて止める。
ああ、と後に続く言葉はなく馬鹿の極みと釣られて顔へ出たのは卑下た嘲笑のみだ。
(国ひとつを己の愚かさで地図の上から消し去っておきながら尚もまだ、詭弁を盛りに盛って何を語る気でいるのか)
最後にコトリと男の鼓動が動き止まってからも少しの間、思考はそのまま働いていたがそれもついに無理だとなって事切れた。
男が動かなくなって暫くあとのこと
ひとりになった竜の独り言が洩れ洞がそれを受け取った。思念は静かに柱から漂う。
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