旅立ち
「おう、あんた。世話になったな」
数日後、フロントでいつものように業務を行っていた唯野の元にあの男がやってきた。男の格好は野球帽にサングラス、マスクはしていなかった。背中には部屋の床に置いてあったリュックを背負っている。
「沼津様、おはようございます。風邪が治ったと別の従業員から聞きました。おめでとうございますといっていいのかは分かりませんが言わせてください。おめでとうございます」
「あー、ありがとう。でもおめでとうはハク湖で伝説の生き物を見つけた時まで取っていて欲しかったがな。本日他の者に伝えたと思うがこのホテルをチェックアウトする」
今日この男がホテルをチェックアウトすることは他の従業員から聞いていた。他の従業員からあのお客様は風邪が治ったからこのホテルからチェックアウトするらしいと言われたが唯野はそこに補足情報が隠れていることを知っている。
ハク湖で伝説の生き物を見つけるための情報集め、それをするために一度このホテルを離れるのだ。そしておそらくハク湖や伝説の生き物の情報を多く知った後に再びこのホテルに現れるのだ。
本来なら男はすでにハク湖に向かっていて伝説が事実か誤りか確認していた。それが今回男がこのホテルに泊まった理由なのだから。
それが出来なかったのは唯野が男に風邪を引いた方がいいとアドバイスしたため。その風邪が思ったよりも悪化してしまって男がハク湖に向かえなくなってしまったからである。
「はい、聞いております。それでですね沼津様。私沼津様のためにですねハク湖や伝説の生き物についての情報を得られる施設についてを少なからずですがまとめましたので、こちらの紙を持って行って下さい」
唯野は男に紙を渡した。この資料を作るために唯野がしたことは簡単なことだ。ネットでハク湖の情報や伝説について書かれたものを載せただけ。
後はB市博物館やB県立博物館、B市図書館やB県立図書館の場所と最寄駅を載せただけ。
「ありがとう。実は俺も少しは調べた。博物館や図書館には行こうと思っていた。それからこの辺の歴史についても少し知っておかなければならないと思った。
知っているか知っていないでは当時の真似具合に差が出ると思ったからな。ではまたな。またここにくる。それがいつになってしまうか分からないがな。であんたは確か唯野といったか」
どうやら男は唯野の名前を覚えているらしい。今このホテルでは胸についているプレートにスタッフと書かれている。数年前まではこのプレートに名字を載せていたが個人情報の問題やカスタマーハラスメント、略してカスハラの問題で全ての従業員がスタッフに変えた。
従業員はチェックインする時に手続きしたときのみ名字を名乗る。その一回を男は覚えていたのだ。
「はい、沼津様。またここで会えることを願っております」
男はホテルを出た。
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