見舞い

「沼津様、フロントの唯野です」


ドアをノックしながら唯野はドア奥の部屋のベットで寝ているであろう男に声をかけた。しばらくしてドアが開き男が出てきた。


「沼津様が体調を崩されたとのとこなので確認しに参りました」


「おう、ちょっと中に入ってくれるか。ゴホゴホ。話したいことがあるからな。まぁあんたは何について話したいかわかると思うがなゴホゴホ。」


「はぁ、では失礼しますね」


男の風邪がうつる可能性もあるがそれは仕方がないことだ。唯野は男の後に続いて部屋に入った。おそらくというか確実に男が話したいことはハク湖の伝説の生き物についてだろう。


唯野は部屋の中がどうなっているのか知っていた。まぁ唯野はこのホテルに勤務しているので当然のことだ。この部屋の中で変わるのは宿泊客の荷物だけである。


男の荷物はリュックだけのようだ。リュックは床に置いてあった。周囲を見渡すとフロントで伝説の生き物について言われた時に身につけていたサングラスや野球帽は見当たらない。おそらくリュックの中にしまってあるのだろう。


「少し横になっていいか。ゴホゴホ。少し風邪を悪化させてしまってな」


「はい、それは構いません。私が伝説に出てくるあの飲み込まれた男に似せた方がいい。そのためには風邪を引いた方がいいとアドバイスしたせいでこのようなことになってしまったのですから。その件はすいませんでした」


唯野は謝った。


「いや謝るな。あんたは悪くない。作戦に対しては俺も納得した上で実行したことだ。悪化してしまったのは俺自身の問題だ。ゴホゴホ。それよりもだ。俺は今寝転がりながら考えた。今回の風邪はとりあえず治そうと思う。治した時点で俺は一度この部屋を解約する。まぁ解約というかゴホゴホ、チェックアウトなのだがな」


そうなのか。男は一度風邪を治しこの部屋を出る。ということは伝説の生き物の存在を確認すること自体を諦めるということなのだろうか。


「あのー、少し申し上げにくいのですが、沼津様は伝説の生き物の存在を確認することを諦めるということなのでしょうか。それとも一度作戦を練り直してもう一度挑戦するということなのでしょうか」


「あぁ。作戦を立て直す。俺は気づいた。伝説の生き物を見たい、それはそうなのだがいかんせん俺はハク湖の伝説について知らなすぎる。ゴホゴホ。一度伝説について深い知識を身につけてから改めて挑戦しようと思う。あんたには世話になった」


「いえいえ、そうされた方がいいかと」


唯野は男に礼をして部屋を出た。

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