誤算

次の日唯野はいつものように出社した。着替えを済ませた唯野は朝食バイキングが行われる会場に移動して朝食バイキングの準備を行う。途中唯野は会場の壁にかけられている時計を見た時に思った。


今から数時間前、あの男は浴衣に着替えて伝説を確認するためにハク湖に向かったはずだ。そして伝説の生き物をハク湖から引っ張り出すためにハク湖の水面に向かってくしゃみをしたはずだ。


唯野は昨日受話器越しで男の咳は聞いた。その時唯野はくしゃみを聞けなかった。しかしあ咳の様子からくしゃみも出るほどの風邪を引いていることは感じ取れた。


くしゃみをした後に伝説の生き物が現れたのか現れていないのか現段階では男しか分からない。


唯野は周りを見渡した。いつもと変わらない平凡な様子。料理担当は料理を作っているし他の従業員は料理を並べたり机と椅子のセッティングを行ったり拭いたりしている。誰1人慌てている人はいない。そこから唯野は男がハク湖の水面にくしゃみをしても伝説の生き物は現れなかったのだろうと推測した。


もしも伝説の生き物がハク湖に現れたのなら平穏ではいられない。ホテルも含めて周辺で大騒ぎになっているだろう。唯野だってこんなところで準備なんかしない。真っ先にハク湖に向かい伝説の生き物をこの目で確認する。


いや、もしかしたらあの男は伝説の生き物を見たのだがまだ誰にも話していないかもしれない。その場合私には話してくれるだろうな。唯野はそう思った。


結論からいうと伝説の生き物がいるのかいないのかは分からないということになった。なぜなら男が風邪を悪化させてハク湖に行けるような状態では無くなっていたからだ。


今朝の朝食会場にも姿を現さなかったところから食欲もない状態らしい。別の従業員が朝食会場に男が出席していないことを気にして部屋に連絡を入れたところ風邪を引いて朝食バイキングを欠席することが分かった。


男は従業員からの安静にして治してくださいという声かけに対し治っては困ると言ったらしい。その従業員はなぜそんなことを言うのか疑問に思っていたが唯野にはその理由が分かっている。治してしまえば飲み込まれてしまった男に似せられなくなるからである。


風邪を引いた方がいいですよと言ったのは私だ。それに賛成したのは男だ。男が風邪を引いたのはお互いの意見が一致したからなのだが目的を達成できないとなると話が違う。


男にはハク湖に行って水面にくしゃみをしてほしい。その結果ハク湖から伝説の生き物が出ないかもしれないし出るかもしれない。まぁ出たらいいが唯野自身は困るし、出なければまぁ伝説のままということになる。


唯野は同僚に男の様子を見に言ってくると伝えた。同僚は分かりました、お願いしますと言ってきた。もしも、いいですよ、唯野さんはフロントに残って下さい。私が行きますからなんて言われたらどうしようと思っていたのですんなり行けてよかったと思う。唯野はエレベーターに乗り男の部屋に向かった。

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