計画通り

あれから1週間が経過した。この1週間唯野自身には特に何も起こらなかった。いつも通りに淡々とフロント業務を行う。トラブルもあったがそれも日常茶飯事のもので印象深い出来事はなかった。


男に関してはあの後しっかり1週間分の支払いをしにきた。男が伝説の生き物に出会うためにどのような作戦を行うのか、唯野が言った通りにするのか。唯野は気になっていたが男がフロントに伝えにくることはなかった。


ただこの1週間唯野は男を見かけない日はなかった。唯野は毎日朝食と夕食はホテルのバイキングを利用している男の姿を確認していた。


伝説の生き物、それがもしも実在していて姿を確認することができたならこの地域一帯はどうなるだろうか。男が言っていた通りに国から伝説の生き物に対しての研究チームなどが送り込まれて調査しれることになるかもしれない。


調査の邪魔になるためしばらくの間はハク湖周辺の立ち入りを禁止されてしまうかもしれない。そうなればこのホテルの経営は大きく傾くことになる。


このホテルを利用する宿泊客は男のようにハク湖を訪れるためと言ってもいい。その観光地が見れなれなくなる。それはこのホテルの利用目的を剥ぐことにつながる。


もしかしたら唯野が男に作戦を言ったことが間違いであったかかもしれない。伝説の生き物が見つかって仮にハク湖への立ち入りが禁止になってホテルが廃業という形になれば遠からず唯野がホテルを潰したことになる。一応世話になっている職場だ。そうはなってほしくない。


その時唯野の目の前にある電話が鳴った。どこかの部屋からかかってきたのだろう。唯野は受話器を取った。


「はい、こちらフロントでございます」


「あー、その声はあんたか、ゴホゴホ。俺だ」


相手はあんたかと言った。唯野の声を聞いただけで唯野だと分かったらしい。フロントには他の従業員もいる。にもかからず分かったということはさては


「あー、沼津様ですか。これはどうも」


例の男は沼津という。男は咳をしながらフロントにかけてきた。どうやら作戦通り風邪を引いたらしい。


「咳を聞いて分かったかもしれんが予定通り風邪を引いた。軽くだが頭痛もする。そこでだ、明日朝4時にハク湖に行こうと思っている。

服装はこのホテルの浴衣で。マスクやサングラスなしだ。撮影用に携帯も持っていく。あんたには風邪を引いたことを報告した方がいいと思って今連絡した。用件はそれだけだ」


「かしこまりました。ハク湖への観光ですね。場所はお分かりでしょうが気をつけて向かってください。天候次第では傘も必要になるかもしれませんのでその時はフロントに立ち寄って下さい。傘をお貸ししますので。では失礼します」


そう言い終わると唯野は受話器を置いた。明日男はハク湖に向かい伝説が偽りか真実かを確認しにいく。そう都合よく伝説の生き物が出てくるとは思っていないが出た時のために心構えはしておいた方がいいかもしれない。



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