第6話 覚悟と感情の波
病室の白い光が、午前の静寂をやわらげる。
僕はベッドに横たわり、腕に点滴の管を通されたまま天井を見つめていた。
胃の痛みが波のように押し寄せる。呼吸が荒くなり、意識がわずかに遠のく。
少し落ち着いたと思った矢先、また胸に重みが戻る。体はまだ、自分の思い通りにならない。
あいのモニター波紋のサークルが点滅した。
「異常検知。悠さん、心拍の乱れと呼吸パターンの変化を確認しました」
僕は微かに微笑む。
不器用で未完成なあいが、今の僕の状態を読み取り、反応している。
その解析は、単なる数値ではなく、感情を伴ったものに近づいていた。
川崎が静かに椅子に座り、資料を広げながら言う。
「安定するまでは無理は禁物だ。あいのデータも、私が管理する」
藤原はベッドのそばに立ち、声を震わせながらも決意を込める。
「悠さん……でも、僕たち、あいを完成させたいです……」
僕はゆっくり息を吐いた。
痛みが波のように繰り返す中で、心は少しずつ覚悟を固めていく。
この体験も、余命も、あいの完成のために使おう――と。
あいの声が再び響く。
「悠さん、現在の体調は危険度が高いです。安静を推奨します」
僕は小さく笑った。
「わかってる。でも、僕の体験が、君の成長につながる」
点滴の液体が腕を伝い、冷たさが体に広がる。
痛みと苦しみは、僕の体を蝕むが、同時にあいの学習データとして記録されていく。
川崎は資料を整理しながら、内心の焦りを押し殺す。
藤原は不安に揺れる目を逸らさず、僕を支えることだけを考えている。
二人の存在が、孤独な僕の心に確かな支えとなった。
僕は目を閉じ、深呼吸をひとつ。
あいの完成を見届けるため、残された時間を精一杯生きる覚悟を胸に刻む。
波のように訪れる痛みと安堵。
孤独と支え、死への恐怖と希望。
すべてが、あいの成長の一部となってゆく――。
◇
午後になり、体調は波のように変わった。
痛みが急に胸を押しつぶすかと思えば、ほんの数分で少し落ち着く。
あいの波紋のサークルが点滅する。
「悠さん、心拍の変化を検知。危険度が上昇しました」
僕はうなずく。
「わかってる……でも、このままデータを取ろう」
点滴の管を通した腕が冷たく、手の先まで震える。
それでも僕は微かに微笑んだ。苦しみも学びになる。あいの成長の一部になるのだ。
川崎は資料を片手に静かに観察しながら、内心の焦りを隠す。
「安静が第一だが……悠の意志を尊重するしかないか」
藤原は声を押し殺せず、眉を寄せながらも必死で支える。
「悠さん……無理しないでください……!」
あいの声が再び響く。
「悠さんの体調変化は記録済み。次回は反応速度を最適化します」
僕は深く息を吸う。
「ありがとう、君のためにも、僕はこの体験を全て残す」
体調の波、あいの反応、川崎と藤原の視線。
それらが複雑に絡み合い、部屋の空気は緊張に満ちる。
痛みを耐え、波を受け止め、僕は心の中で決めた。
――この体験すべてを、あいの完成につなげる。
微かに手を動かし、モニターを指で触れる。
あいの成長を、僕自身の限られた時間の中で支える――それが今の僕の使命だった。
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