第8話 クリストファー・エインズワース
海の向こうから来た男
クリストファー・エインズワースは遠く海の向こうの国から来た男だった。大きな商会の三代目、二十四歳。
万年筆の詰まり取り、ジュードはやった事はないけど、出来る、と思った。
「その万年筆、貸してください」
クリストファーから預かると、両掌で包み込む様にした。目を瞑ると、詰まった部分が感じ取れる。対象が小さい物だから、やりすぎない様にしないと。台所やトイレの詰まりには全力で殴るくらいのイメージだった。これには指先で弾く位かな。
掌に詰まっていた乾いたインクがパラパラと落ちてきた。
「直ったと思います」
クリストファーは目を丸くした。ジュードから万年筆を受け取ると、カバンの中からケースを取り出した。中に入っていたインク瓶とスポイトで万年筆のインクを補充して紙に大きくサインした。
「書ける……」
今度は小さくサインした。
「前よりよく書ける気がする……」
それからジュードの方を向いて、
「ありがとう、本当に助かったよ。よかったら、ご飯を一緒にどう?」
一瞬、時間が気になった。冬で日が短いからもう既に暗いけど、時間はまだ十七時。まだまだ、仕事帰りの人もこれからだから、大丈夫だろう。
「親御さんが心配するかな? 門限とかあるの?」
クリストファーはジュードを学生と思っているらしい。
「いや、僕、働いてます。自立してます。けど、まぁ、近くなら」
「泊まってるホテルのレストランでどうかな? 結構美味いんだ。すぐそこだし」
厳密に言えば、自立しているわけでは無かった。でも、そう言いたかった。
港に面した四つ星ホテルのレストランへ。テーブルマナーは身に付いていた。どの皿も美味しかった。クリストファーはワインを少し飲んでいた。ジュードは未成年なので、同じ葡萄を使ったジュースをワイングラスでいただいた。
クリストファーの国、エイヴリー公国はジュードのいるカレイド国の北東、船で二週間ほどの位置にある。歴史のある国だ。ヒトが生まれた時に神様がくれる能力を「
「君の
「エイブリーでは
ジュードが恥ずかしそうに言うと、
「エイブリーでは
「なんか、初めてちゃんと役に立った気がします」
ジュードは本当に嬉しそうに笑った。その透き通った花びらが綻ぶ様な笑顔に、クリストファーは目を細めた。
「ジュード、君、Ωなの?」
「いや、ごめん、センシティブな事を……」
「いいんです。春に発現して、学校の寮を追い出されたんです。それで父が取引先に嫁がせるとか言い出したんですが、結婚年齢まであと半年、一人暮らしをしています」
「そうか、夜の一人歩きとか心配だね。じゃあ、ご飯を食べたら送っていくね。君の家の近くまで」
それから、お互いの国や身の回りのいろんな話をした。
クリストファーも翌日の仕事があるので、あまり飲まずにご飯を食べて、約束通りにジュードをアパートの近くまで送ってくれた。
「本当にありがとう。明日の夜は君のいるレストランに報告に行くよ。おやすみ」
「おやすみなさい」
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