種火
@Intriguing-Corridor
はじまりは?
蜘蛛の国があった。
いくつもの蜘蛛たちが糸を伸ばし、その領土を広げた国である。
張り巡らされた糸を用いて、蜘蛛たちは、ちょうど糸電話のように、遠くの見知らぬ蜘蛛と日頃からよく会話をしていた。
ある、火遊び好きの蜘蛛がいた。
その蜘蛛は、火が好きであった。
蜘蛛の国はいくつかあるが、この国の糸は綺麗に燃えるので、蜘蛛は喜んでこの国に入った。
この蜘蛛は火をつけるのが上手いので、いっそう綺麗に糸を燃やした。
周囲の蜘蛛たちは、火からそっと逃げるものが大半だったのだが、この蜘蛛の火の美しさに、一匹、また一匹と、他の火遊び好きな蜘蛛も集まるようになった。
仲間の蜘蛛たちは、その蜘蛛の火をよく褒めたものなので、火遊び好きの蜘蛛は、段々とより綺麗で大きな火をつけるようになった。
ある日。
「なっ、何をやっているんだ! お前たち!!」
そこに、一匹の蜘蛛が通り掛かった。
この蜘蛛は警察をやっているものであり、正義感に強い蜘蛛であった。
「なんてことをするんだ! 良識ってものがないのか!?」
警察の蜘蛛は、火遊びをしていた蜘蛛たちを
蜘蛛たちは、呆れ顔で警察の蜘蛛を見た。
これぐらいいいじゃないか。みんなやっている。王様からは怒られていないのだから、私たちは許されているのだ。お前は王様でもないのに、なんの権限があってそう言っているのだ。皆口々にそう言う。
警察蜘蛛は、蜘蛛たちの言い分にふつふつと怒りが込み上げた。
何をしてでもこの蜘蛛たちを罰せねばならないと、そう感じた。
「王様ぁ! この火に気づけぇ!」
警察蜘蛛は、そう言い、火に油を注いだ。
油を得た火は大きく燃え広がり、国中に広がった。
火は国のあらゆる糸を飲み込み、さらに大きく燃え上がる。
蜘蛛たちは、国から逃げる者や、国を守るために鎮火を試みる者、警察の蜘蛛を遠くから睨みつける者など、その対応は千差万別であった。
火が広がる。
何匹かの蜘蛛が死んだ。
ついには国の重要な場所もいくつも燃えて無くなってしまったので、王は兵隊を出動し、どうにか火を鎮圧した。
王は怒り、火遊び好きの蜘蛛と、警察蜘蛛の二匹に裁判を受けさせた。
「お前たちは、この件についてどのように申し開きがあるのか」
静かな法廷で、王は努めて冷静に、二匹に問いかける。
警察蜘蛛は、
「こんなつもりではありませんでした。私は、ただこの者たちに反省して欲しかったのです。国を壊してしまい、申し訳ございません」
と、か細く小さな声で謝罪した。
王はもう一方を見て、
「お前はどうだ、火遊び好きの蜘蛛よ」
と問いかけた。
火遊び好きの蜘蛛は、警察の蜘蛛に指をさしながら、顔を真っ赤にして、
「俺はただ己の衝動に従い、謙虚に火をつけていただけなのです! すべて、油を注いだこの思慮の足らない警察のせいです! 火が燃え広がればどうなるかも分からん、まったく許せない輩でございます! 王様、この警察に正義の鉄槌を下してください!」
そう、辺りに火をつけながら、叫んだ。
種火 @Intriguing-Corridor
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます