第4話 前世の思い出

「ライト!ライト!おい!ちょっと寝ちゃダメだって!」


「ルカ…?」


 覚醒しきらずにぼんやりした視界に困ったようなルカの顔が映った。肩をゆすられそのまま俺が再び眠らないように続けられる。


「もぉ…。君酔い過ぎだよ。ほら水持ってきたから飲んで」


「おぉ…サンキュ…」


 ルカの運んでくれた水を飲んだら少し頭が冴えてきた。冷たい水が食道を抜けて行き少しスッキリする。


「ありがとうな。ルカ。お前本当に優しいよな」


「はは、急にどうしたの?ライト」


 ルカは困ったように眉を下げて笑いながらカップに水を注いでくれた。


「改めて思っただけだよ。こんなに俺に優しくしてくれるのはお前だけ。そしてこんなに長く付き合いがあるのもお前だけだ」


「僕だってこんなに長く付き合いがあるのは君だけだよ」


「いや〜俺彼女ができてもすぐに振られちゃってさ…最終的に私のことどう思ってるの?もっと大事にしてよ!ってさ」


「…」


 ルカはそう話す俺の顔を真顔でじっと見つめていた。そして俺が水をもう一口煽って飲み込んだ後、感情の読めない表情で「それで?」と尋ねてきた。


「いやな?俺は勇者選定の剣を抜いて、パーティも国から認められたわけじゃん。何よりも魔王討伐が優先になるわけだろ?女にはそれがやっぱり理解できないみたいでさ」


「ふーん」


 そう聞きながらルカは自分のコップに入ってるワインを煽った。それを飲み込んだタイミングで再び「それで?」と返した。


「その点ルカは全部わかってくれて、助けてくれて、俺のことも全部理解してくれて最高だなって」


 ルカはまた俺のコップに水を注ぎながら「そうだね」と短く返した。


「いや〜!!お前と結婚したいよ!俺!」


 そう言ったあたりで急にまた眠気が襲ってきて瞼が下がってくる。遠のく意識の向こう側でルカが何やら俺を揺すりながら俺に訴えているがよく聞き取れない。俺はもう眠いんだ。寝かせてくれ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ふとまた意識が覚醒する。夢だ。前世の記憶の夢だった。とても久々に見た。そして思い出した。


「バッチリ言ってんじゃねぇか…俺…」


 思わず両手で顔を覆う。俺が酔っ払った時にポロッと言った世迷言。あいつはこれを本気にしたのか。そしてこれを今思い出すか俺…。


 別にルカと本気で結婚したいと思っていた訳ではない。誰といるよりも居心地が良くて安心できる。そんなやつお前しかいないと言いたかっただけなのだ。そして恋人と長続きしないただの愚痴を溢しただけ。


 あいつ前世から俺のこと好きだったのかな。ソウイウ意味で。ずっと男が好きだったのか?だから今はノーマル?ってことになるのか?


 思い返せば前世のあいつは女みたいに顔が綺麗で、すごく強くて、紳士的で。それはそれは、女によくモテた。でもあいつはどんな美女に迫られても全く靡かず。魔王を討伐するまでそんな自由はないかと適当にあしらっていた。当時は真面目な奴だな程度にしか思っていなかったのだが今思えば非常にわかりやすいサインだったとも思える。


 時々パーティの男連中でこっそり女を買いに行くこともあったのだが、ルカだけは行こうとしなかった。他の奴らに男の嗜みだとか、男なら皆行っているだとか言われていたが、それでも「僕はいいから、皆で楽しんできて」と断っていた。


 当然、男が好きなんじゃないか、はたまた不能なんじゃないかと下衆な勘繰りをされることもあったが、別にルカの趣味がどうであれ、あいつが頼れる仲間であることに変わりは無いし、俺の親友であることに変わりはない。そう思っていた。何よりあいつがそんな下品な視線に晒されてるのが嫌で毎回嗜めていた。思い出した。


 今思い返すと、あいつは俺のことを理解してくれていたけど俺はあいつの事を何も理解できていなかったのかもしれない。自分の心の中を話してくれてもいなかったのかもしれない。


 俺に理解されるより前に、俺に優しくて、俺のこと理解してくれる同性のあいつはもう居なくなってしまった。




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