第2話 感動の再会(とはいかない)②
ルカについて行った先はコンセプトカフェ『めいど・cafe・まじかるはうす』だった。多種多様な兎耳のカチューシャをつけた女が料理が美味しくなると言う呪文を唱えている。
ちなみにバニースーツなのは今日がそう言った趣旨のイベントデーだかららしい。
普段はもう少し布面積の多いメイド服を着ているそうだ。安心した。
なお店員に話しかける時は両手を頭の上へ持っていき、うさ耳のジェスチャーをして「ぴょんぴょん」と言わねばならないのが店のルールらしく、水のおかわりもままならなかった。俺は無事に会計を終えて退店できるのだろうか。
「お待たせしました〜!」
この空間に溶け込めず思考が停止しかけていたがルカの溌剌とした声が耳に入りハッとする。顔を上げると先ほどと変わらずバニースーツを姿のルカが、オムライスプレートを運んできていた。
「こちら、『うさちゃん特製おむらいす』で〜す!!!ご主人様!」
そう言いながらルカは俺の前にオムライスセットが置き、ケチャップを振り始めた。
「も〜っと美味しくなるようにケチャップでお絵描き描き描きしようと思うんですが何の動物が好きですか??」
「え?動物…?」
「そう!動物…!」
「えっと…?」
やっと親友に会えたのに…一風変わった店へ連れてこられ、知らない空間の空気に飲まれて頭が働かない。
「う〜ん、ご主人様は…犬っぽいのでわんちゃん描いても良いですか?」
「あ、ハイ…」
「は〜い!失礼しま〜す!!」
オムライスに絵を描いている横顔を眺めているとルカが話を始めた。
「このオムライスと〜っても美味しんです!わたしも大好きで賄いでいつも食べてて…!」
「は、はぁ…」
つい生返事をしてしまう。俺の知っているルカとかけ離れすぎていて、動揺でまともな返事ができなくなっていた。どうしちゃったんだよ。なんで女になったんだよ。聞きたいことがたくさんあるが、流石にこの場で尋ねてはいけないことくらいは分かる。
「はい!完成しました!!ではではごゆっくり〜!」
俺が動揺しているうちにオムライスにかわいらしい犬を絵を書き上げたルカは軽くお辞儀をしてテーブルから数歩離れた。と思ったら、「あ」と小さく言いながらこちらを振り向き、声を顰めて俺に囁いた。
「さっきのお詫びだから遠慮せず食べてよ。シフトあと30分だからそれ終わったら目白駅の改札で落ち合おう。18時くらいになると思う」
「わかった…」
俺もルカのボリュームに合わせて小さめの声量で返事をした。
ルカはまた先ほどのような接客スマイルを笑顔を浮かべて「ではではごゆっくり!」と一言言ってそのまま裏へ戻っていった。
さっきの話し方は昔のルカぽかった。落ち着いていて、頭が良くて、丁寧な話し方をする奴だった。とりあえず食べるか。せっかくだし。と思いオムライスを口に運ぶ。うん普通に美味い。
ルカが他の客を接客しているのを横目にオムライスを平らげ、早々に店を退店した。正直なところ店の居づらかったのだ。あの独特のふわふわとした雰囲気に耐えられなかった。そしてバニースーツで接客をするルカを見るのもなんだか居た堪れなかった。
特にすることもなかったので指定された目白駅へ向かうことにした。池袋でもいいじゃないかとも思ったが、あのような人気商売なら店の最寄りで男と会うと無用なトラブルを生んでしまうのかもしれない。
ルカとの約束まで20分。店に入って時間を潰すほどでもないので大人しく改札前に立ち、ルカが来るのを待つことにした。
なんだかやけに時間が経つのが遅くてそわそわしてしまう。それも仕方ないか、何せ20年ぶりの再会。先ほどはきちんと会話ができなかった上、明らかに作り込まれた世界観のキャラクターで話してくるので動揺してしまったが、立ち去る直前の様子は前世ルカのものほとんど変わらなかったのが俺を安心させた。
今世では今までどこで何をしてきたのか、聞きたいことがたくさんある。もちろん俺の話だって聞いてほしい。今までお前たちを探し続けてきてやっとの思いで初めて会えたのがお前だたんだよと伝えたい。
そう思っていると俺の名前を呼びながら、足の長い女がこちらに駆け寄ってきた。当然のごとく先ほど頭にあった兎耳はなくて、黒い短めのワンピースと黒い厚底の靴を履いている。白く長い足が強調されて見えた。
「ライカン、お待たせ!」
そういうなりルカの両腕が俺の体を抱きしめた。
先ほどハグした時には気にならなかった、体の暖かさとか柔らかさが衣類ごしに伝わってきて、思わず体が硬直する。こいつが女になったという現実を触覚から伝えられているようで親友相手にこんな落ち着かない、やり場のない感情が湧いてきていることに、後ろめたいような申し訳ないような気持ちになった。
いや、こいつはルカ。ルカだ。前世は男で肩を組んだり、一緒に風呂に入ったりしたこともある。傷の手当だってした。体を見たり触ったりする機会は何度もあったではないか。今世は女になったからと言って俺とルカの関係には何ら変わりあるはずがない。そう。今世の体がどうであれ、俺たちには精神的な熱い男の友情というものがあるので何も変わりないのだ。
「お疲れ。ルカ」
ルカから少し体を離し、肩を軽く叩くとルカが少しよろけた。
「もぉ、力強いよライト。僕、今女の子なんだよ?」と笑いながら言う。そう笑う顔の位置が思ったより下にあって、また少しどきりとした。前世では若干ルカの方が身長が高いくらいだったので、こいつを見下ろすのは少し違和感がある。
「どっかお店に入らない?あ、さっきオムライス食べたからあんまりお腹空いてないか」
「いや全然食えるよ」
「じゃあこの辺りに個室の焼き鳥屋があるんだけどどう?そこなら昔の話もしやすいよね」
「いいな。そこ行こう」
そう話をしながらルカの案内する方について行った。
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