「お前が女だったら結婚してた」って言うから!
カンガルー葛木
第1話 感動の再会(とはいかない)①
バチンと大きな音と共に頬に強い衝撃が走る。目の前の女に平手打ちをされたのだ。今日初めて会った女…いや、前世の親友に。
「ライト…。君がそんなに自分の発言に責任を持てない人だとは思わなかった
よ」
かつての親友と同じ魂を持った女は目の端に大きな涙をため、俺を睨みつけながら言った。
「言ったよね“女だったら結婚してた”って!」
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前世の話をしよう。
前世の俺は魔法や魔物が当たり前のように存在する世界で生きていた。今世から見れば小説やゲームの舞台のような…所謂、架空の中世ヨーロッパ風な場所と表現するのが分かりやすいだろう。
前世の両親は中規模の宿屋を営む穏やかな人達だった。一人息子の俺をライトと名付け、時に優しく、時に厳しく育ててくれた。
18歳の時、俺は聖剣の信託を受けて勇者としてして魔王討伐をする使命が与えられた。魔王城への道中に素晴らしい仲間と出会い、彼らを仲間に引き入れ、勇者の一行として魔王を討伐へ向かい、そして使命を果たした。
しかし、世界は魔王を倒しただけでは平和にはならなかった。魔王は最後に残った力で、せめて人間を道連れにと大陸中へ瘴気を撒き、再び世界を混沌に陥れたのだ。
世界の瘴気を晴らすには、勇者一行の魂を対価に使う『女神の魔法』で世界を浄化せねばならない。そう神の信託が下った。
流石勇者一行といったところか、神の信託を恐れて逃げ出すものも、異を唱えるものも居らず、俺たちは迷わず世界のために自分たちの魂を使ったのだ。
躊躇いもなく世界のために身を捧げた俺たちをえらく気に入った女神様は、命が尽きる直前に俺たちの前へ降りてきてこう言った。「貴方たちを
そんな女神様の計らいにより、俺はこうして現世に生まれ変わった。
今世に転生して早20年。まだ前世の仲間達には出会えていないがそう遠くない未来にはきっと出会えると信じている。
実のところ、この記憶は夢や妄想ではないかと不安になる日もある。でもこの前世の記憶はきっと本物だし、前世の仲間達も生まれ変わっている。そう俺の魂が言ってるんだ。
仲間の姿がどんな姿に変わっていたとしても、魂の形を見れば俺には絶対に誰だかわかるはずと信じている。
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今世の話をしよう。俺の名前は
今世は地方都市に住むサラリーマンと専業主婦をしている夫婦の間に生まれ、大学進学を機に東京へやってきた。
上京してきた理由は2つ。シンプルに行きたい大学が東京にあったこと。2つ目は前世の仲間探しだ。俺は一生かかっても全員を見つけ出すつもりでいるのだが、日本は広い。ならば全国へのアクセスが相対的に良く、日本で一番人口の多い東京へ来れば彼らを見つけられる可能性も上がるだろうという考えだ。
そのため、学校とバイトへ行く以外は極力外を出歩き、かつての仲間がどこかにいないか探して回っている。また、時間がまとまって取れそうな時は東京の外に足を伸ばし、捜索の範囲を広げている。そのおかげで周りには旅行が趣味の男で通っている。
正直なところ、彼らがどこに生まれて、今何歳で、どんなところに居るかなんてものは皆目検討もつかない。俺にできることといえば、日々行動範囲を広げてどうかで偶然出会える確率を上げるくらいのものだ。
今日も専ら仲間探し。今日は山手線の路線の駅を各駅で降り、駅周りを散策している。
新宿から始まって5駅目。池袋で降り、道ゆく人の顔をさりげなく確認しながら歩いていた。
ガヤガヤと騒がしい繁華街裏通を歩く。カップルや気の置けない友人同士であろうグループ、客引きのために出ているであろう居酒屋風の腰巻きのエプロンをつけた男、やたら丈の短いメイド服の女…道ゆく人の顔を満遍なく確認してく。
…今日も見つけられずか。
そう思った時だった。
俺の目が捉えた1人から目が離せなくなり、足が止まる。
俺の視線に気がついた人物がこちらの方を見て目が合う。息が止まるかと思った。
一歩、また一歩。相手が俺の方へ近寄ってきて俺の顔を覗き込み、微笑んでこう言った。
「久しぶり。君の名前を教えて?」
目の前には、ふんわりとした黒髪をウルフカットにし、耳にいくつもピアスを開けた女をが立っていた。背が高くスラリとした女だ。それも何故かバニースーツを着た…。
真っ黒で艶々としたエナメル素材に包まれた体はメリハリがついており、スラリとした足は眩しいほど白い。そんな白くて長い足は目の荒い編みタイツに包まれている。
女は黒くふわふわとした兎耳のカチューシャを揺らして、俺の目をじっと見め、返事を待っている。
俺にはわかる。姿かたちが変わっても俺には魂の形がわかるのだ。
こいつは…
「ルカ!お前…ルカだな!!」
「そうだよ!ライト!久しぶり!会いたかった!」
感動の再会。思わず抱きあう。
やっと再開できたのは前世の仲間であり、俺たちパーティの頼れる弓使いの斥候、そして俺の幼馴染で大親友のルカだった。苦節20年。アテもなく前世の仲間を探し続けていたがやっと努力が実を結んだ
女になっているとか、なぜバニースーツを着ているかなんて些細なことだ。今世で再び会えたことがとてつもなく嬉しい。
ルカの体に回した腕にぎゅっと力を込めた瞬間、頭にガツンと強い衝撃が走った。思わず呻めき声が漏れた。
「お触り禁止で〜す」
痛む頭を押さえながら声がする方を見ると白いバニースーツを着た女が木製の看板を肩に担ぎ、俺に眼飛ばしながら吐き捨てるように言った。
ルカが俺と白いバニーガールの間に入るようにして、慌てて言った。
「違うんだ!ミサ…!彼は私の友達なんだ。久しぶりにあえて嬉しくなっちゃっただけ」
「…本当に?」
「ほんとほんと。でも心配してくれたのはありがと」
ルカは白色のバニーガールをそう言って宥め、地面に崩れ落ちている俺と目線を合わせるようにしゃがみ、眉を下げながら言った。
「ごめん、友達が。この後何か用事ある?もしなかったらさ、お店へ来てよ。お詫びに奢るから」
そう言うルカに俺は反射で頷く。そうするとルカはウサギの耳を揺らしながら綺麗に微笑んだ。
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