第42話 煙と共に吐く悪態
会議を終えた後、北条主任と小野田課長が向かったのはフロア奥にある喫煙室だった。
煙草を嗜む者だけの憩いの場で、小野田課長は苛立ちを隠す事なく舌を打ち煙草に火をつける。
「……まったく、ふざけた話だ」
吸い込んだ煙と共に悪態を吐く。
「同感ですね」
北条も煙草を咥える。
それに小野田は小さく鼻で笑った。
「お前は良いじゃないか。主任から係長に昇格だぞ?」
「やめてくださいよ。そうだとしても、乙が戻ってきたら新しい指導方針はアイツを中心に決めるんですよ? 堪ったもんじゃないですって」
北条は苦々しく眉を顰めて煙草の先に火を着ける。
確かにな、と小野田は事前に買っていた缶コーヒーをスーツのポケットから出して、蓋を開けた。
「追い出した人間を今更、しかも主任として迎え入れるとはな。あの女は何を考えているんだ」
甘味の無いコーヒーを一口飲んで、腹の虫がおさまらない小野田はまた舌を打つ。
「しかも、アイツをクビにしたのは俺の失態だと? 新人共やギルドからクレームが来たからと切ったのは社長だろうに」
そして乱暴にテーブルに置かれた灰皿に押し付ける。
深い溜息をつく小野田の隣で、北条は煙草の灰を軽く落とす。
「……ですが、こちらから出向いて要件と謝罪を伝えろ、との事ですがどうします?」
「一課としての誠意を見せろ、か。下らん。だったら自分で行けばいいだろう……小娘が」
小野田はコーヒーを飲み干して、新たな煙草を咥えた。
経験も実績も無く、社長の娘というだけで気付けば上司になった女だ。面白い訳が無い。
タイミングを合わせた様に北条はスッと出したライターに火を着ける。
それに僅かばかりに機嫌を良くして、火を借りた。
「だが、あんなのでも一応は上司だ。従わん訳にもいかん」
また肺を煙で満たして、吐き出す。
少しばかり、苛立ちも収まって来た。
「仕方がない。誰か適当な――ああ、そうだ。朝倉が良いんじゃないか?」
「彼女、ですか……」
北条は眉を顰める。
だが小野田は半ば投げやりになった様に、吐き出した煙をボンヤリと眺めながら答えた。
「ああ、指導方針の相談だとかで何かと乙と一緒にいただろ。若くて見て呉れも良い女に頭を下げられれば悪い気はしないさ」
そして冗談交じりに薄ら笑う。
「それに、良い女を宛がってやれば、大人しく俺達の言う事を聞くかもしれんぞ?」
「しかし、アリ――朝倉君も嫌がるのでは?」
北条はどこか表情を引き攣らせながら吸殻を灰皿に放る。
「それがな、聞いた話じゃアイツはどうも乙に気があるらしいぞ。最近の若者の好みは中年には分からんな」
ははは、と小野田は笑いながら煙草の火を消した。
「さて、そろそろ行くぞ。余計な時間を取らされた、今日は定時で帰れるか怪しいな」
「……はい、そうですね」
北条は先に喫煙室を出た小野田が忘れた缶コーヒーを手に取って、後を追いかける。
――朝倉アリサは乙斗真に気があるらしい?
「――ふざけた話だ」
缶を持つ手に力がこもる。
苛立ちと沸き起こる感情が魔力を無意識に練り上げて、固い筈の缶が簡単に潰れた。
北条は通路脇の自動販売機横にあるリサイクルトラッシュに乱暴に投げ入れた。
―――
あとがき
ご覧いただきありがとうございます。
次回から斗真達の再登場です。
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