第41話 指導体制の見直し
スクール形式の第一会議室に教育一課に所属する全指導員が集められていた。
穏やかな昼過ぎの陽射しが窓から差し込むが、室内は張り詰めた空気が漂っている。
教育部長からの緊急の通達と言う事で指導員達には期待、不安、警戒がそれぞれ滲んでた。
「皆さん、お待たせ致しました」
予定時刻から数分遅れて月城真里菜が会議室に姿を現した。
ざわつきだした空気を背に受けながら彼女は迷いなく講壇へと進む。
「本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。単刀直入に申し上げますと教育一課が直面している問題に対して、早急に指導体制の見直しを行います」
部下達を見渡して、告げた。
一瞬、小さなざわめきが広がる。
「まず、こちらをご覧ください――」
それに構わず真里菜はスクリーンにタブレットの画面をプロジェクターで投影させる。
ここ数カ月で新人冒険者の負傷率が増加傾向にある事を示す表が映し出された。
「この数値から、新人研修を経ても十分な技術が身についていないケースが多い事が分かります。さらに言うならば、指導員ごとに新人の成果に大きなバラつきが出ている事が判明しました」
真里菜はタブレットを操作して画面を変える。
AとBの異なるグラフだった。
「名は伏せていますが、それぞれ別の指導員が担当した新人達のダンジョン探索のデータです。パーティ人数やスキルの効果など、大きな差が無い様に抽出しています」
Aは討伐数が多く負傷率は低い。反対にBは討伐数よりも負傷率が高かった。
つまり担当した指導員で新人の質が変わってくるという証左。
指導員達は息を呑み、あるいは視線を逸らす。
「この事から今までは各指導員に一任して曖昧にしていた指導方針を是正し、基準化を行います。その一環として配置転換を行います」
真里菜は会議室の空気が重くなったのを感じる。
だが、改革には必要な事だ。
一息置いて、告げる。
「――乙斗真指導員に、教育一課主任として復帰して頂く事を決定しました」
一瞬の静寂。
続いて、どよめきが広がった。
「待って下さい! それはどういう事ですか!」
最前列の北条正人――現一課主任が勢いよく立ち上がった。
それに真里菜は手で制す。
「乙指導員の指導方針は、これまで評価が分かれていましたが新人冒険者の生存率、事故防止という観点においてきわめて有効であると判断しました」
淡々と続けながらタブレットを再び操作する。
スクリーンに乙斗真が担当した新人達の複数のグラフが表示された。
それらは、先の二つのグラフと比較し圧倒的に討伐数は高く負傷率も少ない。
研修中の離脱率を除けば、優秀な指導員である事を示していた。
「過去数年分のデータをギルドから提供して貰い精査した結果です。彼の指導が一定以上の効果があると証明されました」
彼女は続けた。
「そして、既にご存じの方もいると思いますが今の彼は冒険者としても才覚を示しています。その能力を疑う余地は無いでしょう」
尚、と真里菜は険しい表情の北条正人へと視線を向ける。
「現主任である北条指導員には、係長としてよりリーダーシップを発揮して頂きたいと思います。お願い出来ますか?」
それに北条は一瞬面食らった様に呆けるが、我に返り愛想笑いを繕った。
「なるほど、そういう事でしたか。これは失礼致しました。精一杯務めさせて頂きます」
小さく頭を下げて席に着く。
「そして小野田課長」
「は、はい……」
名を呼ばれた中年男性はおずおずと返事をした。
「乙指導員の指導はその実用性に反し、若い世代に受け入れられ難い傾向にありました。それを放置した上に本人の責として解雇したのは我々、管理側の失態です。今回の事を猛省し指導体制の一新を進めて下さい」
「――承知しました」
真里菜は指導員達を見渡す。それぞれが思い思いの感情を抱いているのが分かった。
「現状を改善する為には乙指導員の力が不可欠です。その彼に戻って来て貰う為には待遇面である程度の誠意を示す必要があります。皆さんにはご理解をお願いします」
そして深く頭を下げる。
誰かが躊躇い気味に小さく拍手をし、それに釣られてだんだんと広がっていく。
「ありがとうございます。これから改めて一丸となり、新人冒険者達の支えとなりましょう」
真里菜はそう締めくくり、もう一度、頭を下げた。
◇
(――あの人のやり方がようやく認められた)
朝倉アリサは拍手をしながら、胸の奥が熱を帯びていくのを感じていた。
尊敬する先輩の実力が証明され、会社に認められた。
また一緒に働けると思うと素直に嬉しかった。
周囲を見ると怪訝や不快を示す顔もあったが、安堵や期待をする顔もある。
きっと彼が戻って来てくれれば、指導改革は出来る筈だ。
(ですが……)
だが、同時に。
一方的にクビにしておいて、必要になったから戻って来て欲しい――それはあまりにも横暴だとも思う。
先日、何気なく見た『フェアリー』の動画に映る彼は楽しそうだった。
きっと今の彼の居場所は彼女達の傍なのだ。
拍手を止めて、小さく息をつく。
(斗真先輩の邪魔は……したくないですね)
彼には笑っていて欲しいと思う。
だが、少しだけ。
ほんの少しだけ、胸の奥がチクリと痛むのだった。
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