第27話 合格祝い
――あっという間に、訓練期間として定めた一ヶ月が過ぎた。
Cランク昇格試験は申請すれば、即日実施される。
ギルドが開く朝九時から手続きを行い、試験のルートにもよるが約三時間程で完了するのが通例だ。
そしてもう時計は正午を過ぎている。
そろそろ、彼女達は帰ってくる筈だ。
まだまだ二人とも改善する所はあるが、Cランクとしては十分な実力はあると思う。
基礎的な戦闘、スキルの応用、探索、マッピング等々。誰が見ても規定の水準には達しているだろう。
彼女達なら確実に昇格出来ると確信がある。
俺は二人を見送り、ギルドカフェで優雅にコーヒーを啜って吉報を待っている。
――そのつもりだった。
「……はあぁ……っ」
自然と俺の口から聞く人がうっとおしい程の深い溜息が漏れる。
心配が絶えない。
彼女達は訓練通りに出来ているだろうか?
不測の事態にあっていないだろうか?
試験官の指示をきちんと聞いているだろうか?
特に玲奈は根が真面目な癖に、すぐ調子に乗る節がある。
その辺は沙耶がフォローしてくれていると思うが……。
――怪我など、していないだろうか……。
一応、二人の師を一ヶ月やってきたからか、親心みたいなものが湧いて来たらしい。
(我ながら過保護……いや、余計なお世話という奴か……)
はっ、と乾いた笑いで自嘲する。
コーヒーを頼んでいたものの、風味も何も感じない。
冷え切ったソレを飲み干した、丁度その時だった。
「――おっさーん! 受かったー!」
そんな玲奈の良く通る声が、ギルドに響いた。
◇
玲奈と沙耶のCランク昇格試験は二人とも無事に合格で終わったらしい。
「甘いモノ食べたーい」
その証拠のCランクライセンスのギルドカードを見せびらかす玲奈にせがまれて俺達はそのままカフェで休憩する事にした。
「ねぇ、おっさん。マジで奢ってくれるの?」
「ああ、昇格祝いだからな。好きなの頼んでくれ」
「太っ腹~♪」
玲奈はご機嫌でメニューを開き、沙那と一緒に眺めている。
あれやこれやと吟味して、注文したのは頭にプレミアムと付いた良いお値段のケーキセットだった。
遠慮がないね? と喉まで出かけたが、追加で頼んだコーヒーと共に飲み込んだ。――なぜか、妙に苦く感じる。
程なくしてケーキと紅茶が届き、二人は目を輝かせた。
「わぁお♪ 流石プレミアム、普通の奴よりもお皿も豪華ね♪
「紅茶も良い香りよ」
疲れた身体に甘いモノを入れて幸せそうだ。
「それで、試験はどうだった?」
「そうね。……普通だった」
お高いケーキと紅茶に舌鼓を打つ彼女達に尋ねると、玲奈から返ってきたのはそんな素っ気ないものだった。
「試験だからと身構えていたのだけど、訓練の時と大差は無かったわ」
「そうそう。普通に探索して、普通に魔物倒して、なんか普通に合格してたって感じ?」
沙耶は小首を傾げ、玲奈は肩を竦ませる。
不完全燃焼だ、と言いたげな二人に俺は小さく笑った。
「それは、ギルドが求めている技術を自然に出来ていた証拠だ。慢心はダメだが、自信は持っていい。お前達はもう立派な冒険者だよ」
俺の言葉に二人は目を丸くする。
そして玲奈がご機嫌そうに笑った。
「――おっさんがデレた!」
「ええ……。デレてねぇよ?」
眉間にシワを寄せていると、二人は堪える様に笑う。
「でも、実際おっさんのおかげね」
玲奈は、静かにフォークを置く。
「本当はちょっと、自信なかったのよ」
「……昇格試験がか?」
「その先よ。今まで、ダンジョン探索も配信も楽しく出来てきたけど、これからもそう出来るかちょっと不安だったの。冒険者である以上、いつまでも上層で探索している訳にもいかないし、前みたいに私達だけじゃどうしようもない状況になるかもしれない。いつか、楽しい冒険なんて出来なくなるかもしれないって」
玲奈はいつにもなく、力の無い物言いだった。
だが、彼女は顔を上げる。
「けど、おっさんのおかげで、ちょっとだけど強くなれた。それにまだ強くなれるって事も分かった。これからも冒険を楽しむ事が出来ると思う。だから――」
そこまで言いかけて、彼女は何処か照れくさそうに笑う。
「ありがとね。おっさんが居てくれて良かった!」
「これからもよろしくね。先生」
二人から改めて言われて、一瞬呆けてしまった。
十年間、指導員をしていて良かったと改めて思う。その経験が、活きたらしい。
「ああ。――よろしくな」
答えて、飲んだコーヒーは不思議と美味く感じた。
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