第26話 変異ミノタウロスとのリベンジマッチ
俺が探索ルートのゴールとして設定した大部屋に辿り着いた。
道中、数体のホブゴブリンの群れやゴーレムと鉢合わせた事もあったが、玲奈と沙耶は問題なく処理している。
改善点はまだまだあるものの、これから伸ばしていく土台としては十分だった。
しかし、その部屋の入り口付近で俺達は息を顰める。
部屋の中央には一体のミノタウロスが陣取っていた。
通常種よりも大柄で外皮は黒い。
――変異種だった。
「またミノの変異種? この間、遭遇したばっかりなんですけど……」
うんざりげに玲奈は呟く。
“これはあんまり良くないねー”
“ここまで調子良かったのにな”
“流石にキツイ……”
リスナー達もコメントで嘆いた。
「魔物の変異は他の魔物の魔石を捕食する事で起きる現象だ。好戦的な種ほど変異は起こり易い。ミノタウロスの変異個体は珍しいものじゃないさ」
だが、変異個体は脅威度C相当。今の玲奈達では、ギリギリ勝てる程度だろう。
「訓練はこの辺りで切り上げだな。無理に戦う事も無い」
俺の言葉を聞いて、玲奈は少し考え込んだ。
「……おっさんの見立てだと私らじゃ勝てなそう?」
「いや、そんなことは無い。上手く立ち回れば、勝つ事も出来る筈だ。けど、無理に戦う必要はないぞ。敵を倒すだけが冒険者の正解じゃない。リスクを避けるのも重要だ」
“良い事言う”
“撤退も正解”
“逃げるんだよぉおおお!!”
“無理する事は無いな”
“撤収ー”
「だってさ。どうする、沙那」
「やる気なんでしょう? なら付き合うわ。先日のリベンジマッチという所ね」
玲奈はハンドガンとショットガンのチャンパーチェックを順に終え、沙那は刀を抜いた。
「あ、おい……」
静かに闘気を滾らせる二人に俺はどう止めたものかと考えるが、二人はそれを察したらしい。
「でも、いずれは越えなくてはならない壁よ」
沙那は力強い視線で訴え。
「それに、変異種の魔石って高いんでしょ? だったら戦う価値ありじゃない」
玲奈は不敵に笑う。
本人達はやる気に満ちていた。
“やるの? マ?”
“やっぱ金かぁー”
“レイナとサヤでモチベが若干、違う……”
“トウマの判断次第”
確かに、Cランクになればもっと強い魔物と戦う機会は幾らでも訪れる。
――これも経験か。
「わかった。向上心があるのは理由がどうあれ良い事だ。危なくなったら手を貸す。思いっ切り、だけど慎重にいけ」
俺もいつでも助けに入れるように、念のためスキルで身体と剣を強化する。
「りょーかい。でも私らだけで十分よ!」
「了解。見ていて、先生」
そして、二人は飛び出した。
“始まった!”
“行くなら行っちまえ!!”
“ガンバレ!!”
「先手必勝!」
二人に突進する変異ミノタウロスに玲奈はショットガンを構えて放つ。
一発目は頭部。そして両膝に続けて二発。
「グゥ、ァアッ!?」
通常の弾丸では変異した魔物の外皮は貫けない為に有効打では無い。
だが弱点なら話は別だ。
顔への攻撃は生物であるのなら反射的に嫌がるし、構造的に関節に強い衝撃を受ければ動かせなくなる。
視界を潰し、機動力を削る。大型の魔物に対しての先制も教えた通りだ。
“正確な三連射!”
“膝が折れた!”
その場で片膝をつくミノタウロスに沙那はスキルで電気を纏い走る。
ミノタウロスはそれを察して、顔と首を腕で隠す様に庇った。
変異したミノタウロスの外皮は岩の様に硬い。
それでも、沙那の技の方が上だった。
「やぁっ!」
雷を纏った一閃。
その鋭さもさることながら、間合いを見定め、身体を上手く使った斬撃で、ミノタウロスの片腕を深々と斬り裂き、だらりと下がる。
「――っ!」
すぐさま返す刀でもう片方の腕も斬り裂いた。
“燕返し決まった!”
“サヤ氏もレベル上がってんね”
そこで、沙那が纏っていた雷が弱くなる。彼女のスキル纏雷はチャージした分、出力が増すが、放つだけ威力が減少していく。現状では最大威力は二回が限度だ。
そして純粋な斬撃だけでは仕留めきれない。
承知の上の沙耶は射線を通す為に離脱する。
「玲奈!」
「OK!」
直後、しゃがんでより体勢を安定させて構えた玲奈は引き金を引く。
放たれたのはスラッグ弾。魔力が込められた大振りな一粒がミノタウロスの胸に着弾する。
ミノタウロスはその衝撃に反るが、傷は浅い。彼女のスキルの効果が下振れたのだ。
“あれ、効いてねぇ?”
“スキルが下振れたな”
“二分の一が外れた……!”
“おっさん、フォロー頼むぞ!”
コメント欄が慌ただしくなる。
だが、何も問題無い。
「もう一発!」
間髪入れずに次弾が放たれる。今度は着弾の瞬間、小規模な爆発が起こり、スラッグ弾がミノタウロスの胸を貫き大穴を空けてた。
「ガァ、ア゛ァァ……!」
ミノタウロスは断末魔を残して、魔石を残して霧散する。
彼女のスキルは一撃を激増させるか激減させる強力だがその分、リスクのある類。
今の玲奈がスキルを発動できるのは連続三回。確実性がないので続けて、三体の対象にそれぞれ使うのはリスキーな能力だ。
だが、対象が一体なら三回の抽選で一度でもアタリを引くのは凡そ八割。
ジャイアントキリングには良い武器になる。
しかし、それは、あくまでも八割で高威力を出す方法。
仮に外したり、仕留めきれない時の為に、沙那は既に魔力の蓄積を終えていた。
一拍置いて、二人は大きく息を吐いた。
「っしゃぁっ! 変異種の魔石ゲットー♪」
そして玲奈がガッツポーズ。
「訓練の成果が出たわね」
沙那も実感した様に頷く。
「……やるじゃないか」
思わず口からこぼれた。
“勝った!!”
“良い連携だった!”
“二人だけでもやる様になったな”
“レイナのスキルがフィニッシュブローになったの珍しいな”
“おっさんが後方腕組みおじさんになってる”
玲奈はそんなリスナー達に向けて、ドローンにピースサインをしてから、俺の自信たっぷりに胸を張った。
「でしょぉ? もっと褒めても良いのよ、おっさん♪」
「だから調子に乗るなっての。確かに今の連携は上手くいったが、それは二対一だからだ。対多数戦だったら、お前のスキルは寧ろマイナスに成り得る事を忘れるなよ」
俺は敢えて釘を刺す。
「――あーい。基礎をもっと磨きまーす」
「私もスキルの持久力を上げないと」
ぶー、と不貞腐れる玲奈に沙那は小さく笑った。
“直ぐレイナは調子に乗る”
“拗ねるんじゃありません。けど、頑張ったな:1000コイン”
“サヤは相変わらず真面目な子やな:1200コイン”
“おっさんも嬉しそうだ”
“コレで帰りにビールとつまみでも買ってくれ:2000コイン”
俺はギフトに気が付いて、小さく頭を下げる。
「応援ありがとう。でも、無理の無い範囲で頼むよ。貰ったギフトで二人にケーキでも買わせて貰うな」
“(`・ω・´)b”
“OK”
“そうしてくれ”
“おっさんも今日は酒が旨いな”
「はは。だな」
二人を見ると、笑いながらじゃれ合っている。
まだ興奮が冷めない様子だ。
確かに、俺達が出会った時にも彼女達は変異したミノタウロスに襲われている。
その雪辱を晴らした訳だが、あまり一つの戦いの余韻に浸るのもよろしくない。
俺は手を叩いて、二人の注意を引いた。
「さあ、まだ探索は終わってないぞ。ギルドに帰還するまで気を抜かないようにな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます