第25話  ダンジョンで予行練習

 玲奈と沙耶の個人としての戦闘能力の訓練と併用して、探索の基本を確認する為に、一日の休息日を挟みダンジョンに訪れた。


 実際の試験同様、試験会場となる五階層までは試験官代わりの俺が先頭に立ち、護衛する形で五階層へ続く階段の元へ辿り辿り着く。


「お待ちどおさま。悪いな、少し時間が掛かった」


 剣を鞘に納めると、玲奈と沙耶は何とも言えない表情をしていた。


「いや、十分早いから。私達の半分くらいの時間なんじゃないの……?」


「分かっていたけれど、先生は強いわね」


「まあ、歴だけは長いからな」


 俺は軽く笑って、肩に掛けていたリュックから、公式のマップでも使用されている白紙の専用の合成紙とペンを玲奈に渡す。


「もう一度おさらいだが、Cランク試験は、同行する試験官に都度、ルートを指示される。戦闘能力は勿論、探索の精度、マッピングの完成度――つまり、冒険者としての基本をテストされる。試験中、もし命に関わる様な事があれば試験官がフォローに入ってくれるが、その時点で不合格になるから注意しろ」


 真剣な表情になった玲奈と沙耶に頷いた。


「今日は俺が決めたルートを探索してみよう。予行練習として二人だけでやってみてくれ。目についた事は都度、指摘していく。危ない時は手を貸すけど、極力、自力でやってみてくれ」


「OK。本番さながらってね」


「集中していきましょう」


 言って、二人は五階層に足を踏み入れた。



 ◇



“今の所、良い感じ?”

“ダンジョンでの探索訓練か”

“もっと早く進んでも良くない?”

“↑昇格試験さながらの訓練だから、コレで良い”

“マッピングもしてるしな”

“始まったばっかだ。リアタイ、ラッキー!”


 二人の五階層の探索の様子は記録用としても使えるので、今回も生配信をする事にした。


 先日の訓練とは違い、告知無しのゲリラ配信となったが、リスナー達も彼女達の成長を見守ってくれているのか、直ぐに数百人が集まってくれた。


「それじゃ、この分かれ道は右に行こう」


「はーい」


 俺の指示に玲奈は緊張感の無い声で返事をするが、その眼差しは鋭かった。


 沙耶も前衛兼斥候として周囲を警戒する。


 目視は勿論、耳でも音で情報は拾える。洞窟は音が案外、反響する。注意するのは足音が主だ。


 二人は、俺は居ないものとして、背後にも気を配っている。


 少し慎重になり、進みはゆっくりだが、この程度では減点にはなりえない。


 寧ろ、本人達には心の余裕がある様で、安心して見ていれた。


 だからこそ少しだけ、修正を入れてやる。


「すまない。一度、地図を見せて貰えるか?」


 俺の問いに玲奈がギョッとした。


「え? いやー、ちょっと待ってね。丁度、修正する所だったのよ」


“あっ……”

“これは怪しい”

“見せたくない顔してるw”

“先生の前で提出とか、学生みたいで草”


 コメント欄と、あはは、と苦笑する彼女に俺はニヤリと笑う。


「なんだ、マッピングは苦手なのか? 最初は自信満々だったろ?」


「ぅっ……」


 痛い所を突かれたと、たじろぐ玲奈に俺は肩を竦ませた。


「冗談だ。そもそも今の世代はマッピングをする機会自体が少ない。上手く出来なくて当然だよ。笑いも怒りもしないから見せてくれ」


「……なら、はい」


「おう。沙耶、済まないが少しだけ周囲の警戒を頼む」


「ええ」


 渋々とした玲奈から地図を受け取りながら、沙耶に指示をする。


 玲奈のマッピングはお世辞にも精巧とは言えなかった。


 だが、最低限の要点はおさえているようだ。


「さっきのこの一本道、何メートル位のつもりで描いた?」


「えっと、三〇メートル……位?」


「おしい。実際は四〇メートルだ」


 渋い顔の玲奈に苦笑する。


「別に今は距離の誤差なんて気にしなくて良い。寧ろ、良く出来てる方だ」


 俺は地図の一部を指差す。


「途中、通路が狭まっている所があったが、ちゃんと反映させてるのは上出来だ。それに、一言でも、備考を入れているのも偉い。次に同じルートを通る時は、どんな些細な情報でも武器になるからな。後で一緒に見返すから、失敗は気にせずに続けてくれ」


「はーい。私ってば、案外センスあんのね♪」


 俺が地図を返すと玲奈は、褒められた子供の様に微笑んだ。


“褒められて即ドヤるw”

“わかりやすい娘なんだから( ´Д`)=3”


 それは素直に可愛らしく思うが、釘は刺しておく。


「まだまだ、だがな」


「ぁぅ」


 彼女の額を人差し指で軽く突く。


「そろそろ、良いかしら。あまり放って置かれるのも寂しいのだけど」


 沙耶が俺達を見て、どこかムッと呟いた。


「ああ、すまん。それじゃ、探索を続けてくれ」


 玲奈が小走りで沙耶の元に追いつくと、何かを囁かれた様だった。


「別にイチャついてなんかなかったでしょうが!?」


 流石に、沙耶の言葉は聞こえなかったが玲奈の叫びに苦笑した。


“ん~~このラブコメ感”

“イチャついてました”

“第三者視点だと完全にイチャイチャ”

“サヤさん、鋭い”

“修羅場の気配?”


 そうこうしながら五階層の探索を開始して、しばらく経った頃。


“しょうがないけど、地味だね”

“魔物と遭遇しない時は、ホントにしないのがダンジョン”

“やたらめったら、エンカするより全然良いよ”


 あまり変化の無い画が続き、リスナー達が飽き始めていた。


 だが、俺は目を細める。


(――進行方向からゴブリンが……三体か)


 スキルで《強化》した聴覚でその足音と声を拾う。


 この先の曲がり角になっている所まで既に近づいてきている。


 向こうは二人には気付いていないらしい。


 ダンジョンではよくある遭遇戦だ。


 接敵の際の初動で、戦況の有利不利は大きく決まる。


 気を抜いていたり、注意が別に逸れていたのなら奇襲を受ける事になる。


 そうなれば、彼女達でも対応は難しいだろう。


 ──だが、それは杞憂らしい。


「玲奈。前から来る」


「ん、りょーかい」


“お?”

“ん”

“なんか来るか?”


 二人の方が先に気付いた。


 玲奈は書き込んでいた地図をその場に置きショットガンを構え、沙那は刀を抜きつつ玲奈の射線から外れる。


「ゴブリン、二体」


「はいはい!」


 距離は約十メートル程。玲奈の距離だ。


 目視と同時に、玲奈は二連射。


 散弾がゴブリンの頭部をぶち抜いた。先日、好き放題撃ったのが良かったのか、射撃の精度は随分と上がっていた。


 その射撃で魔石が二つ地面に転がる。


“おお、スナップショット!”

“うまっ”

“ちゃんと上手くなってる!”

“ダン! ダン!”


 だが、玲奈と沙那は構えたままだった。


 一拍置いて、玲奈は二発分を手早くリロードして銃口を僅かに下ろす。


 残心。


 魔物を倒したから安心だと直ぐに警戒を解き、魔石を拾いに行かない。


 特に曲がり角などの視界の悪い所なら出会い頭を警戒する。


 基本的な心構えだが、ちゃんと守ってくれている。


 ――あとは残り一体に気付くかどうか。


 そのまま完全に警戒を解く様なら、俺が前に出る。そのつもりで、二人に気付かれない様に身構えた。


「大丈夫。分かってるわ」


 沙那が呟くと直ぐ後に、ゴブリンが陰から飛び出して、二人に駆け出した。


 それを沙那が迎えうつ。


“まだ居た!”


 姿勢を僅かに下げ、打刀を下段に構える。


 そして、間合いに捉えて、流れるような動きで斬り上げた。


 存分にゴブリンを斬り裂いて、魔石を残して消える。


 今の一閃は、《纏雷》や魔力で身体能力や攻撃力を強化していない、純粋な沙耶自身の剣術だった。


“あぶない……と、打ってる間に終わってしまった(´・ω・`)”

“あぶ、なくない!”

“サヤもちゃんと強くなってるね”

“さっきの動き、超スムーズだったぞ”


「二人とも良いぞ。警戒からの戦闘態勢が早かった。それに玲奈は射撃の精度が上がってる。沙那も刀の使い方が上手くなっているし、索敵も良く出来ている。上出来だ」


「まぁ、私達にかかればこんなもんよね!」


 俺の感嘆に玲奈は胸を張る。


“得意気な顔だこと”

“おっさんに褒められて、喜んでらぁ”

“レイナ(`・ω・´)ドヤァ”

“お手本みたいなドヤ顔するじゃん”


「だからって調子に乗るなよ。ダンジョンは常に危険と隣り合わせだ。油断は足元を救われるぞ」


「もー、おっさんは相変わらず口煩いわねー」


 彼女は勝利の余韻に水を差す様な小言に、唇を尖らせた。


“おっさん厳しい”

“厳しいけど、顔は優しいんよな”

“軽口言い合える師弟は良いね”


「でも先生の言う通りよ」


「はいはーい」


 沙耶に窘められて玲奈は地図を拾い、ペンをクルクルと指先で器用に回す。


「それで、試験官さん? 次はどこに行けば良いのかしら?」

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