第22話 重大発表!おっさんの加入と次の企画

 俺が正式に『フェアリー』に加入した二日後。その昼過ぎ。


 休息日を挟んだ後に、加入報告を雑談配信でやるわ! と玲奈の提案で、俺は二人に連れられて彼女達がルームシェアをしているアパートを訪れた。


「どーぞ、入ってー」


 玲奈がドアを開けて、玄関に入る。


 ふわりと香る他人の生活感のある香りに、俺は靴を脱ごうとして、思わず動きを止めてしまった。


「先生、どうかした?」


 先に上がった沙耶が不思議そうに小首を傾げた。


「……いや。パーティに入ったといっても、一回りも年下の女子の部屋は流石に場違いだなと」


 戸惑いと気恥ずかしさに躊躇してしまう。


 我ながら情けないが俺は仕事以外で異性との関わりが少ない人生だったのだ。


 まだまだ小娘達とはいえ、家にお邪魔するのはハードルが高い。


「えぇー、なぁにぃー。おっさんてば、女の子の部屋の匂いでコーフンしちゃったのぉー? いやらしぃー♪」


 玲奈が眉を吊り上げ、意地悪く笑う。


 お陰で、妙な緊張が取れる。


「ビジネスメスガキは良いから、早く配信の準備しな?」


「ビジネス言うな。せっかく、かまってあげてるのに」


 ちぇー、と口を尖らせた玲奈はリビングに入り、俺を手招いた。


「ほら、おっさん。『フェアリー』としての初仕事」


「はいよ」


 二人で座卓をソファから少し離して位置を調整する。


「ん、あんがと。あと、やっとくから、その辺に座っといてー」


 そして、玲奈は一枚の座布団を俺に投げ渡してから、いつもの配信用ドローンを座卓に置いて、スマホを操作しだした。


「おう」


 頷いて、言われた通りに座卓の近くに座る。


 部屋には派手な映画と浮世絵のポスターが壁に貼られていた。


 人様の家をあまりジロジロと見るものでは無いが、手持ち無沙汰なのでつい見渡してしまう。


 二人の趣味が混ざって些か混沌としているが、コレが彼女達の安らげる場所なのだろう。


「先生、お茶で良いかしら」


「ああ、すまん。ありがとう」


 お盆を持ち、キッチンから来た沙耶から湯飲みを受け取る。


 玲奈の分も座卓に置いて、沙耶も座った。


「今日は報告が目的だけど、その後は得に内容を決めていない雑談だから、先生も気を楽にしてね」


「雑談か。苦手なんだよなー」


「大丈夫。いつも、ちゃんと出来ているわ」


 眉を顰めてお茶を啜ると、沙耶はクスリと笑う。


「でも、おっさんは一応サプライズだから、呼ぶまで喋んないでね。発表前にバレちゃ締まんないもの」


 細かい画角をスマホの画面で確認しながら玲奈は言った。


「お前も口を滑らせるなよ」


「当たり前よ。私が今まで何回、配信してると思ってんの。そんなミスしないわ」


 俺の忠告に玲奈は得意気に胸を張る。


「さあ、準備OK! 時間が来たら配信始めるわよ!」





 午後一時。


 SNSで告知していた配信開始時刻。待機画面が切り替わり、白い壁を背景に玲奈と沙耶がソファに腰掛ける見覚えのある絵を、俺は自分のスマホで確認する。


 概要欄には『重大発表!』と書かれていて苦笑した。


「皆、調子はどーお?『フェアリー』のレイナよ」


「調子はどう?『フェアリー』のサヤよ」


 お馴染みの挨拶で、コメント欄が一気に流れ始める。


“来たー!”

“悪くないぜ!”

“久し振りの雑談だ”

“この間の未発見領域、凄かった!”


 リスナー達の盛り上がりに玲奈が満足そうに頷いた。


「相変わらずに皆元気ねー。良いじゃない♪ 今日は概要欄にも書いてるけど、サプライズ発表あるから楽しみにしててよね!」


「皆、ありがとう。おかげ様でみんな無事よ」


 二人の一言にコメントは更に早く流れ出す。


 それを追って、彼女達は苦笑した。


“おっさんは今日いないん?”

“流石に自宅での雑談配信にトウマは居ないやろ”

“コメントに居たりして”

“やあ、皆。トウマさんだぞ☆”

“↑誰だよwwww”

“なりすませてねぇ”

“次コラボする時のあいさつ、それで良いじゃん”

“おっさんの『だぞ☆』は草”

“やめろし。ちょっと期待しちゃうじゃん”

“お前ら、ホントに本人がココ見てたら怒られるぞ……”

“大丈夫。レイナに付き合ってくれる人だから、きっと許してくれる”

“枝で戦ってくれる位だからな”


「……なんで、本人が出てないのにおっさんの話がそんなに広がる訳?」


 玲奈は眉をしかめるが、彼女の失言はしっかりと拾われた。


“ん? 『まだ』って事は?”

“お?”

“まさかの……!?”


「あ、やばっ――」


 ざわつきだすコメントに玲奈は口元を押さえ、やれやれと沙耶は苦笑する。


“口滑らせたぞ”

“wwww”


 なんてコメントで埋め尽くされたのに玲奈はヤケクソになった様だった。


「えっと……では、ここで重大発表! ――はい、どぞ!」


「やっぱり、口滑らせてるじゃないか……」


“まじか!”

“今の声!”

“www”

“(゚∀゚)キタコレ!!”

“落ち着け。まだ慌てる様な時間じゃない……”


 思わず出た俺の声に、コメントが更に慌ただしくなった。


 玲奈と沙耶が端に寄り、空いたソファの真ん中に、戸惑いながら座る。


「あ、真ん中なんだ。……えー。改めまして、トウマです」


“まじやん”

“ご本人登場”

“トウマさんだぞ☆”

”若い子に挟まれて羨ましいぞい”

”肩身狭そう……”


「だぞ、は流石に言わないからな」


“草”

“www”

“そりゃそうだ”

“ですよねー”


 俺とリスナーの短いやり取りを待って、玲奈は勢いで宣言する。


「って事で、おっさんが正式に『フェアリー』のパーティメンバーに加入します! はい、拍手!」


“!?”

“8888”

“うぉおおお!!!!”

“でじま?”

“コレは熱い”

“8888888”

“新メンバー、保護者”


「今までも何かと助けて貰って来たけど、今後は一緒に楽しい冒険をしていくから、皆もよろしくね!」


 そのまま勢いに任せて言う玲奈に、リスナー達は盛り上がる。


“OK”

“これは楽しくなってまいりました”

“サプライズを自分でバラしてるの草”

“ヤケクソじゃねぇかwwww”

“レイナの圧が強い”


「先生からも一言、良いかしら」


「えっと……。何言えば良いんだろ……」


 コメントの流れを眺めていると、沙耶に促された。


“別に何でも良いんやで”

“おっさんガンバレ”

“好きな酒のつまみとかで、良いよ”

“初々おっさん、という新しいジャンルが開拓した”


 謎のプレッシャーを感じ困惑していると、リスナー達が応援してくる。


「皆、優しいな」


 それが嬉しくて、思わず小さく笑う。


 変に考えず、素直に言う事にした。


「おっさんの俺が、一回りも年下の女の子のパーティに入るのは、どうかと思うけど、二人のおかげで『楽しい事』をしてみたいと思ったんだ。年甲斐も無いけど、応援して貰えたら嬉しいよ。後、好きなつまみは、唐揚げかな」


“OK、任せな”

“応援しゅりゅぅううううう!!!!”

“からあげwwww”

“レイナの面倒は頼んだぜ”

“いいね。今度、酒飲み配信で一緒に飲みたい”

“またサヤ氏と指南動画出してくれー!”

“俺も唐揚げ好き”


「ん? 酒飲み配信か。良いな、それ。今度飲もうか」


“大人な配信だ”

“人生相談したい”

“私お酒飲めないけど、絶対一緒に飲む!”


「皆が受け入れてくれて嬉しいわ。ユニコーンたちが騒いだらどうしようかと思ったもの」


 コメント欄が、ほのぼのとしてきて、玲奈は満足そうに笑った。


“ゆに、こーん……?”

“なにそれ美味しいの?”

“ちょっとこの辺じゃ、見かけないっすねー”

“角の生えた馬みたいな伝説上の生き物。噂じゃ、ダンジョンでも似た魔物がいるらしいよ”

“↑そりゃ、いねぇわな”


「あれ……。私の思っていた反応と違う……?」


 コメントを見ていた玲奈が怪訝そうに眉を顰めた。


「それよりも、もう一つの報告があるでしょ?」


「それよりも?」


 沙耶の促しに釈然としない玲奈は、咳払い。


「まあ、良いわ。実は前回の探索で、昇格試験に必要なスコアを達成したのよ。コレでようやくCランク試験に挑戦出来るって訳!」


“おめ”

“やったな”

“おっさんのおかげだな”

“ナイスー”


 そして玲奈はパンと手を叩く。


「そこで!『フェアリー』の次の企画を発表するわよ!」


“キタキター!”

“と、いうことは!”

“おお!”

“wktk”

“つまり……?”

“最近は楽しみが尽きないぜ”

“激アツ”


 その僅かな間の内に、コメントが流れてリスナー達の期待が高まって行く。


「『元傭兵に一ヶ月ガチで鍛えて貰ったら、Cランクに一発合格出来るのかー!』」


 それに玲奈は満面な笑顔で叫んだ。


「指導の様子は動画や生配信する予定よ」


 沙耶が補足する様に続けた。


“楽しみだ”

“割とハードだった”

“これは期待”

“トウマの腕の見せ所だな”

“一ヶ月かー”

“しんどくない?”

“教えるおっさん的にも、しんどいぞそれ”


「まあ、その辺はおっさんから説明して貰うわ」


 玲奈に振られて、頷いた。


「ああ。おさらいだが、ランク昇格の為のスコアは、ダンジョンで魔物を討伐する他に、探索の際の動画内容が影響する。スコアが達したばかりだと、まだ実戦経験が足りていない事が多い」


 だが、と俺は。


「この二人は、まだ荒い所はあるが基本は出来ているし、スキル以外にも明確な強みもある。何より、長年一緒に居た信頼関係がパーティとしての精度を上げている。少し、基本を見直して、強みを伸ばせば、Cランクへの昇格も無謀じゃない筈だ」


“なるほど”

“おっさんが言うと説得力がある”

“OK、把握”

“りょ”

“おk”

“り”


「それで、ただそれだけじゃつまらないから、今回は罰ゲームも用意してるのよ」


 などと、突然、玲奈が言い出して俺は目を丸くする。


“ほう?”

“まさかの闇のゲームだった”

“どんなのだ?”

“ハラハラ”


「え。聞いて無いんだけど」


 言って沙耶を見ると彼女も僅かに困り顔をしていた。


“おっさんも初耳だと……!”

“なにそれ怖い”

“レイナがまた無茶するのかー”


 そして、玲奈は満を持して。


「もし、どっちかでも不合格だったら――私がおっさんと一日イチャイチャデートします! うわー、コレは失敗出来ないなー!」


“ん?”

“ただの自分へのご褒美なのでは?”

“うらやまけしからんじゃん”

“俺がおっさんとデートしたい”

“皆、落ち着け。コレはおっさんへの罰ゲームだぞ”

“合格させられなかった責任をとるのか”

“なんて事を考えるんだ、レイナは……!”

“初回からあんまりハードだとトウマ、パーティ抜けちゃうから抑えないとダメだよ”

“かわいそう(´・ω・`)”


 玲奈の眉がピクリと跳ねた。


「よーし、分かった。アンタら今からオフ会しましょう。一回、面と向かって話し合いましょうか」


“ひぃいいい!”

“カツアゲされそう”

“ガクガクブルブル”

“( ゚Д゚)え゛っ”

“ショットガンは勘弁してください”


 そのコメント達がおかしくて俺は思わず声を出して笑った。


「よし、なら俺も本気で鍛えてやらないとな」


「おい、私とのデートはご褒美でしょーが」


「ちょっと、今から訓練メニュー考えるので、静かにして貰っていいですか?」


「おっさんもリスナー側か!」

 

「先生とデートしたいからといって、動画を利用するのはダメよ?」


「沙耶まで!? ココは、私が頑張ってデートを回避するのを応援する流れじゃないの!?」


「ちょっと何言ってるか、わかんないっすねー」


「リスナー共! 草生やしてんじゃないわよ!?」


 そうして、リスナー達を巻き込んだ俺達のじゃれ合いは、陽が落ちるまで続き、楽しい時間を過ごしたのだった。

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