第23話 おっさんの個人レッスン(玲奈編)

 俺の『フェアリー』加入を報告した雑談配信の翌日。


 俺達はさっそく、一緒に宣言した『一ヶ月で二人のCランク昇格』を目指す為にギルドが管理する、隔離区域に設けられた訓練場に訪れた。


 ダンジョン出現の影響で荒廃した街の中で、そこだけ新しい広大な施設だった。


 冒険者に提供するサービスは充実しており、物理魔法共に高い耐性のある頑丈な壁で囲われた五〇メートル四方のフリースペースがいくつもあり、壁同様に両耐性がる数種類のダミー人形や飛び道具用の的などが常備されている。


 本来は新人冒険者の訓練や、新しい武器の慣らしだったりスキルの研究の為に設立され、当初は使用時間がある程に賑わっていたが、昨今では全てのフリースペースが埋まる事などなかった。


 そんな、がら空きなフリースペースの一つで、玲奈が撮影用のドローンを起動する。


「よし、OK! おっさん、はじめて」


 彼女に促され、俺は頷いた。


 ドローンが投影するホログラム画面には、事前に告知していた為に既に1000人近い同接が表示され、少しビビる。


“お、はじまった”

“キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!”

“特訓回だな”

“訓練開始ぃー!”


「皆、調子はどうだ? 『フェアリー』のトウマだ」


「調子はどーお? 『フェアリー』のレイナよ」


「調子はどう? 『フェアリー』のサヤよ」


“良い調子だぜ”

“悪くないね”

“おっさんから、あいさつ始まると本当に加入したんだなって実感する”

“wktk”

“ちょっとトウマ、照れてる?”


 今回の主導は俺ということで、恒例のあいさつは俺からだった。


 どこか気恥ずかしさを感じたが、それを見抜かれてか、玲奈はニヤニヤとしている。


 俺は咳払いを入れる。


「それじゃ、訓練を始めるぞ。俺は大分、口煩いと思うが、辛抱してくれよ」


「分かってるわよ。その辺の新人と一緒にしないでって!」


「大丈夫。真剣にやるわ」


 二人の答えに、少し肩の力が抜けた。


「確認だが、Cランクの昇格試験の内容はダンジョン五階層を、同行する試験官の指示に従い、マッピングをしながら探索する事だ。受ける指示は“通路を真っ直ぐ”とか“その分かれ道を右に”とか最低限のもの。その際に見られるのは、個人の戦闘能力や探索の精度、パーティだったら連携の練度だな」


 それがギルドで事前に説明を受ける内容だ。


「二人には戦闘能力と探索の精度を上げて貰う。今日は戦闘能力だ」


 そこまで言って、指導員時代には、既に新人達はうんざりしていたな、と思い出す。


 だが、二人は俺の話を真っ直ぐ聞いていてくれる。


 嬉しいと思うと共に、俺もちゃんと向き合おうと思えた。


「その上で質問だが“自分の強みと弱み”は言葉に出来るか?」


“なんか、おっさん指導員っぽい”

“元指導員だぞ、この人”

“そうだった……!”


 二人はコメント欄を見て、小さく笑った。


 そして、先に玲奈が小さく手を上げる。


「そうね……。可愛い所とか?」


 そのまま人差し指を唇に当てて、ウィンクする。


 ……真剣に聞いてくれていると思った矢先にこの子は本当に――。


“かわゆい。けど、今じゃねぇだろ”

“可愛い。真剣にやれ”

“バカ可愛いよ、バカ”

“取り合えず一回、怒られてください”

“そういう所だよねー”

“サヤもちょっとガチで引いてる……”


「そうだな。……それで沙耶はどうだ?」


“ほら、おっさんキレた!”

“軽くスルーされてんの草”

“スルーが一番キツイよね”


「ごめんてば。弱みは、直ぐ調子に乗る所! 質問の意図は理解してるから、もっかい、やらせてって!」


“レイナ焦ってんな”

“ちょっと本気で焦ってる”

“親に怒られた子供かな”

“この子も反省してるんです”


「それで? 俺の意図とは?」


 苦笑する俺に、玲奈はホッとして改まる。


「自分の長所短所をちゃんと理解した上で、得意をもっと伸ばしながら苦手をカバーするって事でしょ? お互いに共有出来てれば、連携でも補えるもの」


“ちゃんと理解してるじゃん。えらい”

“飲み込みは良いのよね”

“最初からそうすれば良いのに”

“トウマに甘えたいんだね”


 玲奈はそんなコメントに「ごめんてば!」ともう一度謝って、一息ついた。


「私の場合、スナップショットって言うの? 武器がショットガンってのもあるけど、照準に時間を殆どかけないわね。ゴブリン数匹位なら同時に相手出来るわ。その分、狙撃は苦手かも。あとスキルね。一発逆転も出来るけど、確率依存だから状況によっては裏目になるし、下手すると腐るわ。――そう考えると、おっさんよりも全然、外れスキルかもね」


 「私は、やっぱり速度と手数かしら。通常のミノタウロスだったら《纏雷》を使えば、群れでもなんとか渡り合えたもの。でも、スキルを最大限に活かすには以前の様に充電をする必要があるから、一人ではアタッカーとして心もとないのは実感しているわ。後は、防御面でも課題があるわね」


 沙耶も続く。


「うん、十分だ。二人ともちゃんと自分を客観的に見れているな。それを頭に置いておけば、闇雲に訓練して無駄になったり、ただ言われた事を繰り返す作業にならずに済む筈だ」


 二人に素直に関心する。


 思った以上に彼女達は、のびしろがあると直感した。


「よし。それじゃまずは玲奈からだ」





 俺はフリースペースの一角に、大小高低の様々な鉄製の的を用意して、玲奈にはそれらから10メートル程離れた所に立ってもらう。


「取り合えず普段通りに適当な的を撃って貰えるか?」


「良いけど、結構近いのね。精度を上げるって言ってたから、てっきりもっと離れた所からやるんだと思ってた」


 不思議そうに言う玲奈に、俺は頷く。


「ああ。この位がショットガンとしては、銃口の向きさえ合っていれば“取り合えず弾は当たる”距離だ。だが、散弾が程よく散らばり“最も威力の出る”距離でもある。それに実際の戦闘では五から十メートル前後で戦う場面が多くなるからな。お前の距離で“確実に仕留める為に当てる”練習と思ってくれ」


「OK、やってやるわ!」


 彼女は銃口を下げた状態で一度、深呼吸を置いて――。


「っ!」


 標的に向けて、引き金を引く。セミオート故の連射性で立て続けに銃声が響いた。


 装弾数の八発分全てが命中して的を揺らした。


「どんなもんよ! 流石にこの距離なら外さないんだから!」


“おお、やるねー”

“撃つの早っ!”

“改めて見ると、よく女の子がショットガン連射できんな”

“もう十分なのでは?”


 そんなコメントもあってか、玲奈は得意げに胸を張る。


 確かに今のままでも、五階層でも通用する筈だ。


 しかし彼女はちょっとしたことで、もっと上達出来る。


「ああ。確かに言うだけはある。だが、さっきのは反動を魔力で強化した腕力で堪えてただろ」


「そりゃそうよ。素の私の腕じゃ、こんなの連射出来ないもの」


 当然、と言う玲奈に俺は納得する。


 その認識が狙撃への苦手意識に繋がるのだろう。


「それは誤解だ。確かに、女の子の力で制御するのは大変だが、そもそも反動は逃がすもんだ」


 俺はジェスチャーで構えを取る。


「右足を一歩後に引いて、膝は柔らかく。重心は少し前に置くイメージで銃床を肩にしっかりつけて頬付けする」


「うん」


 玲奈は俺の真似をして構えた。


「フロントサイトとリアサイトを一直線に、常に視線と銃口を合わせるが、視野は狭めるなよ。それにフォアエンドはしっかり持つが力み過ぎるのにも注意だ。強張って軸がブレる。肘も締めれば安定しやすい」


 横から見ると肘の開きが気になったので、思わず手を添えて直してしまった。


「っと、すまん」


「大丈夫よ。続けて」


“ん? 何が?”

“今の時代、直接触れて指導するのはNGなんだよね”

“パワハラとかセクハラとか言われるの、わけわかめ”

“普通の会社でも下手したら訴えられるのよな”

“昔は普通だったのにな”

“レイナは大丈夫みたいだ”

“基本は良い子だからね。武器扱ってるから流石に真面目にやる”


 チラリとコメントを見ると、リスナー達が今の時代を憂いている。

 

 ……それについては、同意だ。


「――撃つ時は呼吸を合わせる。軽く息を止めて引き金を引け」


 意識を玲奈に戻す。


「反動は腕や肩だけで堪えるな。膝で衝撃を受けて身体全体で後ろに逃がすイメージだ。――撃ってみろ」


「んっ!」


 短い呼吸で放たれた一発の散弾は、用意した一番小さな的に命中した。その反動は上手く逃がされ、銃口のブレは最小で済んだ。


「よし、良いぞ。連続で撃つ時は少しだけ銃身を下にずらす事を意識するんだ。闇雲に撃ち続けると銃口が目標から逃げてくからな」


「なるほどね、なんか分かって来たかも……!」


 玲奈は、リロードをして集中する様に呼吸を整える。


「基本はそのフォームだ。狙いを変える時は腰で上半身をそのまま動かす。それに合わせて足運びで向きを変える。腕だけで狙いをつけないようにな」


「――OK!」


 そして玲奈は、再度全弾を続けて放つ。


 やっている事は同じ事だが、射撃精度と次弾に移る速度が良くなっている。


 一発毎は僅かな差だが、八発分に積み重なると大きな差となって出た。


「ねぇ! 今の良かったんじゃない?」


“おお!”

“なんか上手くなったな”

“急にプロっぽくなったぞ”

“ふーん、上手いじゃん”

“普通にうめぇ”


 自分でも実感したのか玲奈は表情を輝かせる。


「うん。――綺麗だ」


 それに俺は頷いた。


“!?”

“おっさん!?”

“ふぁ!?”


「え……は、はぁあ!? お、おっさん、いきなり何言ってるのよ!」


「何もおかしい事は言っていないぞ。本当に綺麗だ」


「――ん、な゛っ……!?」


 玲奈はなぜか息を詰まらせる。やはり本人は自分を完全に客観的に見れないらしい。


 リスナー達もコメントで騒いでいるが……どうしたのだろう?


「少し俺が言っただけでここまでフォームが改善されるとは驚いたよ。新人指導のお手本にしても良い位だ」


「ああ、うん……。あんがと」


 テンパっていた玲奈は急にスン、とする。


“あ……”

“ですよね”

“(´・ω・`)”

“レイナの感情死んだぞ”


 そして玲奈は短く自嘲する様に笑った。


「まあ、実戦でやるには大変そうだけどね」


「慣れれば自然に出来るさ。玲奈は筋が良い。それに努力家だからな」


「……そういうのいいってば」


 玲奈は頬を赤らめ、ムッとする。


「俺に言われた事を素直に聞いて、自分なりに消化しようとしてるだろ。それに常に実戦をイメージしてるのは、表情を見れば分かる。根が真面目なんだな」


「だから、そういうの面と向かって言わないでくれる!? ほら、私は練習してるから早く沙耶の方に行ってきなさいよ!」


 玲奈はしっしっと俺を追い払うと、改めて的に向かってショットガンを構えた。


“レイナちょろいなー”

“ちょろインレイナ爆誕”

“トウマも鈍感力なかなかだな”

“ラブコメかな?”

“まあ、おっさんは兄とか父目線だからなー”

“罪なおっさんだな”

“普通に指導してただけなのに”


 俺についてくるドローンが投影するコメント欄は、好き勝手言っていた。

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