第20話 撮れ高は命懸け
いつ撮れ高があるか分からないと、玲奈は未発見領域に入って早々にドローンを起動してライブ配信を開始した。
しかし、未発見領域といっても、そこは既知の五階層の風景と大差は無かった。
遭遇する魔物も普通のゴブリンばかりで、たまにゴーレムが混ざる程度。
俺達はマッピングをしながらで歩みは遅いが、特に危なげなく広い通路を進んでいた。
チラリと頭上のドローンが投影するホログラム画面を見るとゲリラ的なライブ配信になったが『フェアリー』の人気故か、既にに数百人近くの同接数となっている。
“未発見領域キター!!”
“神回になる予感! リアタイ視聴出来て良かった!”
”お、トウマ居る!”
”未発見領域でおっさんコラボは熱い”
”おっさん居るなら、なんとかなるやろ”
”期待大”
配信開始当初は、未発見領域の発見ということで、コメントは盛り上がったが……ただ、黙々とマッピングをする画が続けば、リスナー達も大人しいものだ。
「――まあ、何事も無ければそれはそれで良いか」
ポツリと呟くと、玲奈にギロリ、と睨まれた。
「全然、良くなぁい! これじゃ撮れ高も何もないじゃない! 折角の未発見領域なのにぃ!」
堪らずと玲奈は心底口惜しい様に、拳を握り震わせる。
“うわっ、びっくりした!”
“ノイキャンが仕事しお”
“俺達のレイナが、激おこぷんぷん丸になっちゃった(´・ω・`)”
“↑古のネット民がいる。絶滅危惧だ!”
“↑よし、保護しよう!”
“(´;ω;`)やめてよー”
“↑草”
“まあ、でも未発見領域っていっても実際はこんなもんよね”
リスナー達があまりの暇さに、コメントで遊び始めた……。
「こればかりは仕方がないわ。相手はダンジョンだもの」
それに沙耶は小さく溜息をついた。
「なら、玲奈はどうなって欲しかったんだ?」
俺の問いかけに彼女は肩を竦ませる。
「決まってるでしょ? お宝ざっくざくとかよ。ギルドに売れるし、動画にも出来るし、良い事尽くめじゃない」
「夢見る事は良い事だが、現実も見ような」
“それはそう”
“おっさん、やめてあげて。レイナのライフはもう0よ”
“やめとけレイナ。お前が欲張ると、ろくなこと無いぞ”
“ほら、お小遣いあげるから元気出しな:500コイン”
“なんか、特に起こりそうも無いからメシ行ってくる”
そんなコメントが流れて、俺は苦笑する。
玲奈もホログラム画面を見て、大きな溜息を溢して、見ていて可哀そうな位に肩を落とした。
「まあ、確かにそうね……。リスナーも飽きてきちゃってるし。動画としても残せないか。期待してたのに無駄骨かぁ~」
“しなしなレイナ、久し振りに見た。これはゴハンが美味しくなるぜ”
“今夜はぐっすり眠れそうだ”
“しなしなレイナからしか得られない栄養素がある”
“やれやれサヤも良いものだぞ”
――なんか、リスナー達が変な癖に目覚めてないか?
“やめて、おっさん。そんな目で俺達を見ないで”
“これが『フェアリー』の古参リスナーの平常運転です”
「……マジか。まあ、人それぞれだからな」
“ありがとう”
“おっさん優しい”
「あーあ、こうなったらレアな魔物が出て来てくれても良いんだけどなぁー」
玲奈が不貞腐れた様に言うと、コメント欄が荒れ始めた。
“あっ(察し)”
“そういう事言う”
“ざわざわ……”
“レイナはそういう事言っちゃダメ”
“撮れ高と命どっちが大事なの!?”
“あーあ”
“みんな、心の準備しておけよ……”
何事だと俺が眉間にシワを寄せると、沙耶が“やれやれ”と小さく溜息をつく。
「レイナはフラグ回収が得意なの」
“そうなの”
“そう”
“超得意”
「えぇ……まじか……」
俺が呟くのと、同時か――通路の奥から慌ただしい足音が響いて来た。
そして間もなく、数匹のゴブリンが血走った目でこちらへ突進してくる。
「ちょぉ!? なになに!」
「奇襲……! 数は五――!」
”ほらな!”
”だから言ったのに!”
”まじでフラグ回収しやがった!”
玲奈と沙耶が慌てながら武器を構え、コメントも慌ただしくなる。
「――って、あれ?」
「これは……どういうこと?」
だが、ゴブリン共は俺達に襲い掛かる訳では無くそのまま通り過ぎて行く。
そのどれもが怯え、負傷していた。
まるで、何かから逃げている様に……。
“なんかヤバくない?”
“追われてたっぽい”
「――口は災いの元とは良く言ったもんだわな」
俺が吐き捨てると、ゴブリン共を追って来たのかソレは現れた。
ホブゴブリン。だが、その個体はよく見かけるものよりも大柄で、異様に発達した筋肉に緑の身体に赤い紋様が浮かんでいた。
それは大剣を手にしながら、もう片方の手でゴブリンを掴んでいる。
息を呑む俺達を見て、ソレはニヤリと笑った。ゴブリンを握りつぶし、手の内に残った魔石を飲み込んだ。
「――ガァアアア!!!!」
そして、咆哮。
一定の魔力を持つ魔物は咆哮にすら魔力が乗り、威圧となる。
肌が痺れる感覚に舌を打ちつつ、俺は剣を構えた。
コメント欄を気にする余裕もなさそうだ。
「――二人とも、先に行け。俺が殿をする」
「それだけヤバい奴ってこと?」
玲奈の問いに、ホブゴブリンを注視しつつ。
「ホブゴブリンの変異種だが、赤い紋様がある。魔力が高い証拠だ、その分、身体能力も見かけ以上。ギルドが定める推定ランクはB。俺でもギリギリ勝てる位だな」
二人に戦わせるにはリスクが高過ぎる。
剣を握る手に自然と力がこもった。
「防御に徹すれば、時間は十分稼げる。だから急げ」
だが、二人は動かなかった。
寧ろ、俺の隣に出て、それぞれ武器を構える。
「バカ言うんじゃないわよ。私はこのパーティのリーダーよ、そんな奴相手に殿なんかさせらんないっての!」
「それに一人でギリギリなら、三人なら勝てる相手でもあるわ」
二人の瞳に恐れはあっても迷いは無かった。
「グルゥウ……!!」
変異ホブゴブリンは威嚇する様に唸る。
ジリジリと間合いを詰めるように、にじり寄る。次の瞬間にも突撃してきそうだった。
問答している暇は無い。
「ホントは逃げて欲しいんだけどな。――やるなら覚悟を決めろよ!」
言い合っている内に襲われるのが一番不味い。
俺は二人の決意を汲むことにした。
「俺と玲奈で押さえる。トドメは沙耶だ」
言って俺は、沙耶の打刀に触れて《強化》を施す。
「一時的だが、刀の耐久力を強化した。全力の雷撃を叩き込め」
「OK!」
「――了解!」
二人は頷き、玲奈はショットガンを構え、沙耶は数歩分、後ろに跳び退り、魔力を練り上げる。
「それじゃ、ぶっ放すわよ!」
吼えながらこちらに向かうホブゴブリンに玲奈はショットガンを八発連続で撃ち続けた。
無数の散弾がホブゴブリンの身体を叩く。
まともにダメージは入っていないが、その衝撃で巨体が揺らぐ。
撃ち尽くした直後に玲奈はリロードに入り、代わりに俺は地面を蹴った。
「はぁっ!」
踏鞴を踏んでいるホブゴブリンが体勢を立て直すより早く、俺は剣を叩きつける。
岩でも殴った様な、痛みを伴う衝撃が腕を振るわせた。
普通なら刃は潰れ、まともに柄を握れなくなっているだろう。
だが俺の《強化》なら話は別だ。剣は消耗せず、身体も無理がきく。
「――っ、らぁ!!」
そのまま二撃三撃と続ける。
刃の鋭さを強化していても、元がただの安物の剣だ。魔力を帯びた肉体は強固な鎧の様で、傷は浅い。
だが、それでも構わない。ホブゴブリンの動きを抑えられれば十二分。
「リロード終わったわ! しゃがんで!」
その声に応え、姿勢を低くする。
再びショットガンの八連射がホブゴブリンの頭部へと集中した。
「グァ、ガァア!?」
身体は頑丈でもやはり顔は急所なのだろう。視界を潰され、何かを振り払う様に乱暴に大剣を振り回し始めた。
「っ、馬鹿力だなっ!」
まともに受ければ、叩き潰される程の一撃を俺は剣の刀身で滑らせるようにして強引に受け流す。
「おぉおおっ!!」
何度かそうして凌ぎ、甘くなった一撃に、俺は《強化》の出力を上げて迎え撃ち、大剣を大きく弾く。
鈍い金属音が響き、ホブゴブリンが大きくよろめいた。
俺の役目は果たしたと、跳び退り彼女の射線を通させる。
「行け、沙耶!」
「やっちゃって!」
俺と玲奈に応える様に、沙耶は練り上げていた魔力でスキルを起動して打刀に雷を纏わせる。
「――任せて」
彼女が静かに答えると、雷鳴の様な衝撃音と共に沙耶の姿が消えた。
同時に稲妻が走る。
閃光がひらめいたと思うと、沙耶はホブゴブリンの背後に立っていた。
――そして、その首が宙を舞っていた。
ごとりと、首が地面に落ちた音で、焼き斬られた事に気が付いた様に一瞬遅れて、ホブゴブリンの身体が魔力の霧として霧散する。
「なんとかなったか……」
無事の勝利に俺が胸を撫で下ろすと、肩で息をする沙耶に玲奈は小走りで駆け寄り抱き着いた。
「よっしゃー! 変異種の魔石ゲットー♪」
「……玲奈、抜き身の刀を持っている時に抱き着くと危ないわ」
「お小言はいいから、それよりカメラ見て! またコメント凄い盛り上がってるわよ!」
玲奈が指さす先を見ると、ドローンが浮かんでいる。
そういえば、生配信中だったのだと、思い出す。
ドローンが投影しているホログラム画面のコメント欄は目で追えない速度で流れて行く。
“勝った!”
“おめでとう!”
“サヤの高火力。おっさんの防御力。レイナの支援射撃”
“連携取れてたな”
“サヤ氏の雷撃いつもよりも強かったけど、トウマのスキル?”
“↑《強化》で刀の耐久上げたから刀の劣化を気にせずにブッパできた”
“良いパーティだ”
“おっさんもすげぇけど、レイナもサヤもすげぇ!”
「イェーイ♪」
「……イェーイ」
玲奈がリスナー達に向けて満面な笑顔を振りまき、それに合わせて沙耶も控え目にピースする。
「ほらほら、おっさんも!」
「え、俺も……?」
玲奈に促され、ドローンが俺に向いた。
遠慮したいです、と二人を見るが勝利の余韻に浸っているのに水を差すのも忍びない。
「あー、と……。い、いぇーい?」
“イェーイ!”
“いぇーい♪”
“Yeet!”
“Woohoo!!”
“イェーイ!!”
戸惑いながらのおっさんのピースに、リスナーのコメントは一際、盛り上がったのだった。
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