第19話 未発見領域
約束の日。
俺はパーティ『フェアリー』の一時加入の助っ人として共にダンジョンの五階層に訪れた。
辿り着いた幾つかの通路と繋がる大部屋の前で、俺達は息を殺す。
岩で出来た人型の魔物ゴーレムとゴブリン三体が居た。
幸い、ゴーレムとゴブリンの群れは離れている。
「――ゴーレムは俺がやる。ゴブリン共は任せて良いか?」
「任せなさいって、そんくらい余裕よ!」
「先生も気を付けて」
俺は頷き、片手剣を抜いてゴーレムに駆けた。
同時に二人はそれぞれ戦闘態勢に移り、ゴブリンに向かう。
「おっと……!」
ゴーレムが近場の岩を掴み、俺に投げた。
回避は簡単だが、二人に流れ弾になっても困る。スキルで強化した剣の腹で受けつつ、同じく底上げした膂力で軌道を逸らす。
「それはもう、いいっての!」
もう一度、投擲の姿勢に入った直後に、俺は加速して肉薄。その岩の腕を剣で打つ。
その衝撃で掴んでいた岩を落とし、踏鞴を踏むゴーレムに身体と剣の強化の出力を一段階上げる。
ゴーレムは身体の中心に魔石があり、それを守る様に人型に岩が形成されている防御力の高い種類だ。
その岩にも魔力が込められており、並みの剣では斬れる訳も無く、打撃武器も弾かれ、銃も表面を僅かに削るだけ。魔法ですら魔力の密度が低ければ、威力が減衰してしまう。
新人冒険者には厄介な魔物だ。
だが決して無敵の敵では無い。
「せやっ!」
俺はゴーレムの岩の身体の隙間に刃を通す。
全身を殻で覆われた甲殻類よろしく、接合部分の防御力は無いに等しい。
端から切り崩していくのは、そう難しい事じゃない。
ゴーレムの両腕、片足、脇腹と順に“解体”していくと、やがて残りの部位が魔力の霧となって掻き消えた。
それを確認して、加勢が必要かと二人を見ると杞憂だった。
既に玲奈のショットガンがゴブリンの胴を抉り、沙耶の雷を纏う打刀が残り二体の首を刎ねている。
「お疲れ。やっぱり中々やるな」
「当然よ。獅子は兎を狩るにも全力を尽くすってね!」
「先生もお疲れ様。見事だったわ」
二人の元に戻った俺の労いに玲奈は胸を張り、沙耶は頷いた。
「にしてもさー?」
俺と沙耶がそれぞれ剣を鞘に納めると、玲奈はショットガンにシェルをリロードしながら呆れた様な表情をする。
「おっさんってば、休みの日はいつも“ああ”な訳?」
「ん? 何がだ?」
「昼間っから、お酒ってのはどうかと思うわよ。どうせ昨日も飲んでたんでしょ。もう若くないんだから、程々にしなさいよ」
玲奈の言葉がダメージ的な意味で心に刺さる。
反論する余地が無い。
「まあ、独り身の男ってだいたいそんなもんだよ」
なので開き直る事にした。……我ながらダメな大人だ。
「へぇー、おっさんってばその年で彼女居ないんだぁー、かわいそぉー。今度、お酌してあげようかぁ~?」
玲奈は眉をハの字に曲げて、口元に手を添えてニヤニヤと笑う。
「なあ、言葉の刃でイジメてくるんだけど。ちょっとお宅の小娘、黙らせてくれない?」
「おっさんも結構、鋭い刃ぶん投げてる自覚ある?」
俺が沙耶に助けを求めると、玲奈に真顔で問われた。
お互い様だ、と短く笑うと、沙耶もクスリと微笑む。
「もうすっかり仲良しね」
「どこが?」
「どこがよ?」
そういう所よ、と沙耶は小さく肩を竦ませた。
「でも、お酒が残っていなくて良かったわ。二日酔いではダンジョン探索所じゃないもの。玲奈じゃないけど、身体は大事にして欲しいわ」
沙耶の心配に俺は軽く笑う。
「ありがとう。けど、それに関しては問題ない。俺の《強化》は内臓器官にも有効だからな。やろうと思えば、酔わずに飲んでいられる」
「なにそれしょーもな……。いや、待って――『度数の高いお酒飲んでみた』って動画伸びるかしら?」
眉を顰めていた玲奈が、途端に表情を輝かせる。
「確か、ウォッカやテキーラなんかが40%位だったわね」
沙耶の言葉に、玲奈はニヤリと。
「どうせなら100%とか……!」
「それ、もう純粋なエタノールなんだわ」
俺達は周囲を警戒しながらも少しばかり、そんな中身の無い雑談を挟んで休憩をする。
「――それで、ここまでの調子はどうだ?」
俺の問いかけに二人は顔を見合わせ、頷いた。
「そうね。前衛が一人増えると全然、違うわ。索敵も厚くなるし、大分余裕がある感じ」
「ええ。安心感があるわ」
「それは良かった。それで、リーダー。次はどのルートで行く?」
「そうね。――こっち! なんか面白い事がある予感がするのよね!」
◇
俺達は玲奈の決めたルートで探索を続けていた。
この三人の中なら防御力の高い俺が先頭を行くべきだが、あくまで今回は二人の経験を積む為の探索だ。
沙耶の慎重な周囲の警戒と、玲奈の面白い事が起きないかと、どこか期待している様子を数歩下がって見守りながら、俺は助っ人らしく殿に勤める事にする。
曲がりくねる通路を進む途中、不意に玲奈の足が止まった。
「ん? ……あは! コレはラッキーなんじゃない!?」
彼女は壁際にピタリと張り付くようにして、手で壁を弄っている。
「……どうした玲奈。実は壁フェチだったのか?」
「そうだったのね。別に隠す事なかったのに」
俺と沙耶がその様子を暖かく見守っていると、玲奈が壁に張り付きながら顔だけこちらに向ける。
「そんな訳ないでしょ!? どんなニッチな性癖よ! ――って、キタキタ♪」
彼女の手が壁のある所で止まり、そこを両手で指差した。
「ここ! 風が通ってる! 向こうと繋がってるって事じゃない!」
「『未発見領域』か。散々開拓された上層で、まだ見つかって無いルートがあったんだな……。にしても、よく気付いたな」
「まあ、私ってば幸運の女神だからねっ!」
「悪運じゃなくてか?」
「ひどい!」
軽口を叩きながら俺もその箇所に手を添えると確かに、冷気が抜けているのが分かった。
ダンジョンが出来て五〇年。日々多くの冒険者がダンジョン探索に挑み、今も尚、到達階層を更新し続けている中、十階層程度までは隅々までマッピングが済んでいると思われていた。
実際、自称するように、何気に玲奈は“持っている人”なのかもしれない。
それも、冒険者としての才能だ。
「それじゃ、おっさん♪ ご自慢の《強化》でどーん! と、お願いしまーす♪」
そんな彼女は上機嫌な甘い声でおねだりしてくる。
……お宝を見つけた、と、にやけた顔じゃなかったら素直に可愛いと思えるのに。
「玲奈なら、そういうと思ったわ」
沙耶は想定通りと小さく溜息をついた。
俺は眉を顰めて、腕を組む。
「老婆心で言うが、実際に探索するならそれなりにリスクはあるぞ。この先は地形の情報が無い。普通、五階層では特別な罠なんかは無い筈だが、それも絶対じゃないし、魔物の強さも一緒とも限らないからな」
「そんなの分かってるわよ。でも、そのリスクに見合うだけの撮れ高があるのが未発見領域ってもんじゃない。冒険してこそ冒険者でしょ?」
玲奈が当然という様に胸を張る。
沙耶へと視線を向けると彼女も静かに頷いた。
「ある程度の危険は承知しているわ。だけど、私達はどうせ命をかける冒険をするなら、なるべく楽しもうと思うの。――アナタが“私達では絶対に無理”と言うなら話は別だけど」
それに俺は深く溜息をついた。
確かに未発見領域の探索はリスクは高い。だが、この二人は頼りない素人でも無いのも確かだ。
基本を守っていれば、そのリスクを減らす事も出来るだろう。
……二人の期待の眼差しが――痛い。
「分かったよ。リーダーがそう言うなら従うさ。それに――正直、俺も興味はあるしな」
観念して答えると、玲奈の表情がパァッと明るくなった。
「さっすが、おっさん、話がわかるぅ♪」
「だから、おっさん言うなっての!」
笑いが零れ、緊張が緩む。
「ったく……ほら、壁を崩すから、離れてろ」
俺はもう一度溜息をつくと、剣を抜いて《強化》を起動する。
それに二人とも、表情を引き締めた。
「ここから先は普段以上に慎重にな。――行くぞ」
俺の刺突で、壁が崩れ、未知への道が露わになった。
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