第18話 『フェアリー』の昼下がり

 とある平日の昼下がり。


 玲奈と沙耶がルームシェアをするアパートには二人の趣味が入り混じった独特な雰囲気だった。


 壁の一角には玲奈のお気に入りの派手な映画の、その隣に沙耶が選んだ波を描いた浮世絵のポスターが張られている。


 調和も何もないが、本人達にとっては落ち着く自宅だった。


「――あのおっさん、昼間っから飲んだくれてるわ」


 そのリビングで、ソファに座りながら電話を切った玲奈が座卓にスマホを置いて、むくれた様に口を尖らせる。


「良いじゃない。今日は休暇にしているんでしょう。好きにさせてあげれば良いわ」


 沙耶は座卓に和柄の座布団に正座で座りながら、静かに茶を啜る。


 その湯飲みにはふわりと湯気が揺れ、茶柱が一本立っていて彼女はクスリと笑う。


「っても、彼氏だったら昼酒してる様な男は嫌ね」


 玲奈は隣に転がるパステルカラーのクッションを抱いて、フン、と鼻を鳴らした。


 それに沙耶は僅かに目を細める。


「彼氏にしたいの?」


「はあぁっ!? そういう事じゃないわよ! おっさん趣味なんかないから!」


 玲奈は慌てて跳ねる様に否定する。だが、その頬に心なしか赤みを差したのを沙耶は見逃さなかった。


「でも、最近はあの人の話ばかりしているわ」


 沙耶はさして興味の無いような表情で、だが含みのある声色で言う。


「そ、それは……ほら。――そう、コラボ相手に丁度良いからよ! あのおっさん案の定、バズったし、リスナーからも要望多いじゃない!」


 玲奈は視線を泳がせながら、指で髪をクルクルと弄りながら捲し立てる。


「でも、パーティに誘いたいなら反対しないわ。私も先生が入ってくれれば、もっと強くなれると思うもの」


「え、そう? ……って、別に……! そういう訳でもないし……!」


「……そう」


 沙耶は揶揄い半分、見守り半分といった感じで小さな笑みを作った。


 僅かに空いた沈黙に耐えきれなかった様に玲奈は立ち上がる。


「いいから、さっさと買い出し行くわよ。弾の補充とポーションとか必要なもん揃えないといけないし!」


 そして話題を強引に切り替えるようにバッグを肩にかけた。


「そうね。私も刀の研ぎをお願いしようかしら」


 沙耶も、もう一度小さく笑って立ち上がる。


  冒険者で一番大事なのは無事に帰還する事。準備は怠らずに。


 とある動画のその言葉は、彼女達の胸に確かに刻まれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る