第13話「断罪の時と新たなる夜明け」
数日後、王宮の大広間で、事件の処断を下すための謁見が行われた。
かつてアナベルが婚約破棄を言い渡された、あの場所だ。だが、状況は完全に逆転していた。
玉座に座る国王の前で、罪人として跪かされているのはラインハルトとセレスティア、そしてリヒトハイム公爵夫妻だった。
国王は厳しい表情で告げた。
「ラインハルト、そなたは真実を見抜く目を曇らせ、偽りの聖女にうつつを抜かし、国を滅亡の危機に晒した。その罪は重い。よって王位継承権を剥奪し、北の果ての修道院へ幽閉とする」
「そ、そんな……父上!」
「黙れ! そしてセレスティア。民を欺き、禁忌の術を用いた大罪人。そなたには生涯、地下牢での償いを命じる」
セレスティアは絶望のあまり、その場で失神した。
リヒトハイム公爵夫妻もまた、真の聖女である娘を虐待し追放した罪により、爵位を剥奪され、平民への降格と財産没収が言い渡された。彼らはアナベルにすがりつこうとしたが、レオニールが冷たい視線でそれを阻んだため、すごすごと衛兵に連れて行かれた。
罪人たちが去った後、国王は壇上から降り、アナベルとレオニールの前まで歩み寄ると、深く頭を下げた。
「そなたたちには、本当にすまないことをした。国を救ってくれたこと、心より感謝する」
王の謝罪に、会場にいた貴族たちも一斉に頭を下げる。かつてアナベルを嘲笑った者たちの顔は蒼白で、誰も彼女と目を合わせられない。
「顔を上げてください、陛下」
アナベルは凛とした声で言った。
「私は、過去を恨んではいません。すべての苦難があったからこそ、私はレオニール様と出会い、本当の愛を知ることができましたから」
彼女の言葉に、レオニールは誇らしげに彼女の肩を抱いた。
「陛下。褒美として一つだけ願いたい」
「何でも言ってみよ」
「我々は辺境へ帰ります。王都の喧騒は、妻の肌に合わない。静かな地で、二人で暮らしたいのです」
それは、聖女としての地位も名声も捨て、ただ一人の男の妻として生きるという宣言だった。
国王は少し残念そうにしたが、二人の揺るぎない絆を見て、笑顔で頷いた。
「よかろう。辺境伯領には永久の自治を認める。幸せになれ」
王宮を出る時、アナベルは一度だけ振り返った。そこにはもう、辛い過去の幻影はない。あるのは、輝かしい未来だけだ。
馬車に乗り込むと、レオニールが待ちきれないようにアナベルを引き寄せ、唇を重ねた。
「帰ろう、俺たちの家に」
「はい、あなた」
馬車は春の日差しの中、北へと走り出した。二人の手は、固く繋がれたままだった。
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