第12話「銀の聖竜と浄化の光」
アナベルの体から、爆発的な光が溢れ出した。
それは眩いが刺すような光ではなく、すべてを包み込むような温かく清らかな輝きだった。
彼女の肌に浮かんでいた銀の鱗が、一枚一枚剥がれ落ちるようにして光の粒子へと変わり、空へと舞い上がっていく。
粒子は渦を巻き、やがて巨大な竜の姿を象り始めた。伝説の聖竜ヴェルサリス。その威容は神々しく、見る者すべてを圧倒する。
「あれは……伝説の、聖竜……?」
国王も、騎士たちも、そして逃げ惑っていた市民たちも、足を止めて空を見上げた。
光の竜は大きく口を開け、澄み渡る鐘の音のような咆哮を上げた。
『キィィィィィィーン!』
その音波が広がると同時に、王都を覆っていた黒い雲が晴れ、青空が覗く。
光の竜はそのまま魔物へと突進し、その体を透過した。
ジュッ……と、氷が熱湯に溶けるような音が響く。
泥の魔物は断末魔を上げることもできず、内側から溢れ出る光によって浄化され、白い塵となって消滅していった。
魔物を構成していた瘴気が消え失せ、淀んでいた空気は清浄なものへと変わっていく。枯れ木には芽が吹き、濁った水は清流へと戻る。
これぞ、真の聖女による奇跡。
すべての光が収束したとき、そこには一人の女性が立っていた。
アナベルだ。
しかし、その姿は以前とは違っていた。顔や手足、首筋を覆っていた銀の鱗は跡形もなく消え去り、そこには白磁のように滑らかで美しい肌が現れていた。
銀色の髪は陽光を浴びて輝き、青い瞳は宝石のように澄んでいる。
その美しさは、もはや人の領域を超え、女神の再来と見間違えるほどだった。
「アナベル……」
レオニールが呆然とつぶやき、ふらつきながら彼女に歩み寄る。
アナベルはふわりと微笑み、倒れ込みそうになった体をレオニールに預けた。全力を使い果たし、立っているのがやっとだったのだ。
「終わりました、レオニール様。……私、綺麗になれましたか?」
消え入るような声で尋ねる彼女を、レオニールは力強く抱きしめた。
「ああ……綺麗だ。だが、鱗があろうとなかろうと、お前は最初から世界で一番美しかった」
彼の目尻には光るものが浮かんでいた。
その光景を、周囲の人々は息を呑んで見守っていた。呪われた娘と蔑まれていたアナベルこそが、国を救った真の聖女であり、氷の悪竜と呼ばれたレオニールこそが、彼女を守り抜いた英雄だったのだ。
一方、力尽きてへたり込んでいたラインハルトとセレスティアは、騎士たちによって拘束されていた。
「離せ! 私は聖女よ!」
「無礼者! 王子に触れるな!」
二人のわめき声は、市民たちの「聖女アナベル万歳!」という歓声にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。
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