第2話 天業の子
俺が陰陽・妖王伝の世界に転生してから一ヶ月。
さすがに俺も今は冷静に事態を受け止められている。
まず
自分で歩くこともできなければ目もよく見えていない。
尿や便をおむつの中に垂れ流している。
最初は思ったより気持ち悪かったが今はもう慣れた。
あの
何せ本編では老若男女問わず呼吸のごとく虐殺していたからな。
人の命なんてなんとも思わない生粋の怪物だ。
自分より弱い人間が自分の上に立つことなど許さず、すべてを蹂躙して支配した。
破壊は嗜み、支配は摂理。
傲慢という言葉すら超越した史上最悪、いや。災厄の陰陽師。
日本人口の約三分の一が犠牲になっている。
(というのもゲーム本編での話、今は違う)
そう、今は俺が知るゲーム本編が開始していない。
なぜなら父親の
つまり今の俺はまだ何の罪も犯していないただの純真無垢な赤ちゃんだ。
そうだとすればやることは一つ、行動指針は死なないことだ。
俺はもちろん死にたくないので、死なないように慢心せず誠実に生きなければいけない。
幸い俺は陰陽・妖王伝をやり込んで知り尽くしている。
起こることがわかっていれば回避もしようがあるというもの。
「おぉーー! 手足を動かせたんでちゅねぇ! 偉いでちゅねぇ!」
「ぅあー……」
「うあって言ったわ! 声を出すなんて天才ね!」
「ぁー」
それはこの
俺が天業の子であり、絶大な妖力を身に宿しているということでさっそく甘やかし育児が始まっている。
いや、赤ちゃんのうちはいい。
ただこの二人、俺が喋れるようになってからもずっとこの教育方針だ。
近所の人を蹴飛ばそうが小動物を虐めようが、とにかく褒める。
これが巷で話題の叱らない教育というやつかな?
(そりゃ人として歪むよ)
なんでこんなことを知っているか?
公式が発売しているファンブックにすべて記載されていたからだ。
これがまた人でも殺せそうなほど厚い。
実際、
トップクラスじゃない、トップそのもの。
一位の座に君臨して二位を遥か彼方に置き去りにするほどの底なしの妖力がある。
この
ところが現代になって没落してからは見る影もない。
現代の名家に後ろ指を指されて、馬鹿にされる日々を送っていただけに俺の誕生は嬉しかっただろう。
「また手を動かした!」
「足も動かしたわ!」
つまり俺はこの両親の甘やかしを受け入れずにしっかりと育たなきゃいけない。
これがいわゆる最初の闇落ちフラグ破壊だ。
ラスボスとして日本の脅威とならないように、絶対に闇落ちだけはしちゃいけない。
それともう一つ、当たり前の話だけど強くなるのは必須事項だ。
いくらいい子にしていてもこの世界、平然と妖霊とかいう化け物が闊歩している。
この妖霊を討伐するのが陰陽師の仕事であり、日本になくてはならない存在だ。
といっても一般人の大半は妖霊どころか陰陽師すら知らない。
妖霊は普通の人には見えないし、陰陽師も日本社会の裏で暗躍する仕事人のような立場だ。
つまり名家だの何だのってのは言い方はすごく悪いけど日陰者同士の小競り合いでしかない。
そんな日陰者が討伐するのが妖霊だ。
妖霊に殺されても変死扱いされて加害されたとすら認知されない。
いわゆる神隠しと呼ばれる現象は妖霊による仕業のものが大半だ。
死体すら発見されず、人知れず生を終える。
この世界に生まれた以上、俺がそうなってもおかしくはないんだ。
いくら災厄の陰陽師に転生したからといってそんな最期は迎えたくない。
俺は生後間もない体ながら毎日のように妖力を知覚する努力をした。
俺が生まれた直後に立ったり目が見えたのは無意識による妖力強化によるものだ。
両親も驚くほどの事態だけど、あれは
(
そう考えると少しだけ面白くなってきた。
「あなた! この子の笑い方がすごく邪悪よ!」
「おぉ! これは将来性しかないな!」
なんでだよ。たぶん怖いだろ。
でもそんなに邪悪な顔をしていたのか、俺。
だとしたら気をつけないとな。
慢心は禁物だ。俺はあくまで誠実な人間にならなきゃいけない。
幸い俺は体を除いて何もわからない赤ちゃんじゃない。
甘やかされてつけあがるなんて事態は避けられるはずだ。
生後一歳にも満たない俺が今から原作知識を駆使すればきっと悲劇は避けられる。
そう思っていた生後半年後。
その日の夜は珍しく
夜の静寂が訪れても俺は必死に妖力というものを手探りで探し当てようとしている。
幸い赤ちゃんは数時間ごとに寝て起きてを繰り返すから大人の生活リズムとは無縁だ。
(よし、少しずつ掴んできたぞ)
体内の奥底に眠る何かがかすかにビジョンとして見えた。
ガッツポーズをしたいところだけど、あいにくこの体じゃそれも叶わない。
それどころか、俺を見下ろしている侵入者に対して抵抗する手段もない。
「……ぁ」
「母親は寝ているな」
そう、俺が気をつけなきゃいけないのは闇落ちフラグだけじゃない。
俺が天業の子として生まれた瞬間、日本各地の陰陽師は異変に気づいた。
天業の子は世界の在り方や理すらも変えてしまうほどの力を秘めている。
そんな天業の子を危険視してこの世から葬りたいと考える奴がいてもまったく不思議じゃないということだ。
この刺客に対して俺は文字通り手も足も出せない。
思いっきり泣いて母親を起こすか?
そうなると母親が起きるか、俺が殺されるのが早いか。
どうする、俺。まぁここは一か八かの秘策がある。
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