第3話
「ゴミの化身だ。厄介っていうか汚ねぇ……けど、あんたなら攻め手があるでしょ、まだ」
「えぇ、何百と」
ララクは短く頷き、すぐに駆け出した。風が足元で弾ける。彼の動きは、もはや一介のヒーラーのものではない。
ララク・ストリーン、彼はいまや、数多のスキルをその身に宿していた。
名前 ララク・ストリーン
種族 人間
レベル 55
アクションスキル一覧
【ヒーリング(Ⅰ)】【エアスラッシュ(Ⅶ)】【フィジカルアップ(Ⅸ)】
【スピードアップ(Ⅶ)】【スラッシュムーブ(Ⅱ)】【クイックカウンター(Ⅱ)】
【挑発(Ⅴ)】【ディフェンスアップ(Ⅶ)】【カウンターブレイク(Ⅳ)】
【ギガクエイク(Ⅳ)】【シールドアタック(Ⅳ)】【ウェイトアップ(Ⅳ)】
【サーチング(Ⅵ)】【ウィンドブレイク(Ⅴ)】【スピントルネード(Ⅳ)】
【空中浮遊(Ⅳ)】【嗅覚強化(Ⅱ)】【ウィンドカッター(Ⅵ)】【ウィンドスラッシュ(Ⅸ)】
……NEXT
パッシブスキル 一覧
【追放エナジー】【剣適性(Ⅹ)】【盾適性(Ⅸ)】【魔力上昇(Ⅹ)】
【身体能力上昇(Ⅹ)】【防御力上昇(Ⅹ)】【俊敏性上昇(Ⅹ)】【体力上昇(Ⅶ)】
……NEXT
ララクが走りながら右手を構えると、微かに光が生じた。その動き一つひとつに、数多のスキルが練り込まれているのが分かる。かつての彼は【ヒーリング】しか持たない最弱のヒーラーだった。だが今、その手には歴戦の冒険者たちの力が宿っている。
彼がこれほどまでにスキルを獲得している理由は、1つの特異なパッシブスキルにあった。
【追放エナジー】
獲得条件:パーティー契約を100回解除されること。
自分から解除した場合、あるいは意図的に解除された場合はカウント対象外(通算100回)。
効果:パーティー契約を解除してきた相手、ならびにそのパーティーメンバーのスキルを獲得できる。
同じスキルを複数回得た場合、その分だけ効果が上昇する。
このスキルこそ、ララクの異能の根幹である。
彼は「追放され続けた」ことによって、他人の力を受け継いでいたのだ。
先ほど使った【ストロングウィンド】も、かつての仲間・風角ジェルネイが持っていたスキルだった。
ララクは走りながら、ほんの一瞬だけ目を細める。
あの時の悔しさも、無力さも、今は力に変わっている。
小柄なララクは、凄まじい加速でごみ溢れる大地を駆け抜けた。足元の鉄片が跳ね、風圧で細かな灰や砂塵が吹き飛ぶ。その疾走を見たゴミクイの目がぎょろりと動く。明確な警戒と敵意。
そして次の瞬間、奴は喉を鳴らしながら息を大きく吸い込み、先ほどよりも鋭い動きを見せた。
【ポイズンブレス・ブラスト】
効果……毒の息を速射する。
先ほどの【ポイズンブレス】の変化形。広範囲に毒を吐き出していたものを、今度は一点に収束させ、弾丸のように高速で撃ち出す。紫色の煙が凝縮し、幾重もの毒矢となって放たれた。
「……っく、反応が……遅い……!」
ララクは身をひねってかわそうとしたが、足場があまりにも悪かった。錆びた缶や鉄くずに靴底が滑り、回避がわずかに遅れる。瞬間、腕に鋭い痛み。服の上から毒液が染み込み、じわりと皮膚の下へと侵入していく。
毒が血流に乗り、筋肉を締めつけるような鈍痛が走った。継続的な毒のダメージ。通常の回復魔法では除去が難しい、厄介な状態異常だ。
だが、ララクには──いや、正確には彼の仲間には、それを打ち消す力があった。
「 【ポイズンリカバリー】! いくらでも毒まみれになって来い!」
背後からゼマの声が響く。軽快で、それでいて確信のこもった声。彼女の持つクリスタルロッドが光を帯び、薄い緑の霧がララクを包み込む。
みるみるうちに毒の紫が溶けるように散っていく。
体内を侵食していた毒素が浄化され、息を詰めていたララクの胸が一気に軽くなった。
ゼマは戦闘医。ヒーラーでありながら、前線で仲間の傷と毒を同時に処理する冒険者だ。
その実力は、数多の冒険者の中でも屈指といえる。
ララクは深く息をつき、腕を一振り。再び視線を前へ向ける。
戦場に吹く風が、次の一手を促すかのように荒野を走り抜けた。
「……避けると長引くだけか。気合入れろ、ボク……! 【アドバンスナックル】!!」
ララクの声が荒野に響く。右腕へと魔力を集中させると、彼の身体が一気に加速する。地面を蹴るたび、鉄片が弾け飛び、風の尾が残る。かつての仲間・突進殴りのバイセコが得意としていた突進系スキル。直線上への破壊力は抜群だが、その反面、急な方向転換ができない。
「ボキュロロオオオ!」
ゴミクイが喉を鳴らし、異様な音を響かせながら再び息を吐きだす。
【ポイズンブレス・ブラスト】を連続発動。紫の毒弾が雨のように降り注ぎ、空気がじりじりと焦げつく。
ララクはその中を、真正面から突き抜けた。
毒液が服を焼き、皮膚に痛みが走る。しかし彼は止まらない。
すぐ後方で、ゼマがロッドを構えたまま呟く。
彼女の治療が、的確にララクの体内から毒を排除していく。
痛みだけが残り、体は動く。それで十分だ。
(っく、ゼマさんの治療は的確だけど……痛みは消えないな。凄いな、こんな戦い方をバイセコさんは。……そうだ、抗え恐怖に……!!)
ララクは痛みに顔を歪めながらも、自分を奮い立たせる。
その瞳に宿った闘志が、燃える風のように揺らめいた。
圧を感じたのか、あるいは本能的に危険を察したのか、ゴミクイが身体をのけぞらせ、後退を始める。だが遅い。
凄まじい勢いのまま突進したララクの拳が、ゴミクイの顎を正確に撃ち抜いた。
肉の鈍い音と共に、ゴミクイの口が大きく開き、「グボロオオオ」と苦悶の叫びを上げる。
その衝撃で、飲み込んでいた大量のごみが吐き出され、腐臭と共に地面に散らばった。
混じっていたガスが反応し、薄紫の煙がふわりと立ちのぼる。
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