第10話 朝比奈家

「それじゃ、早速俺の部屋でゲームしようぜ!」


 隼人は俺が家に入るなりすぐに自分の部屋へと連れて行こうとしたが、美月さんが俺の腕を掴み、止めた。


「まずは、お父さんとお母さんに流星くんのことを紹介しないとでしょ?」

「あ、そっか」


 そうだな、たしかに二人の両親に挨拶するのが先か。

 まあ、二回挨拶をすることにはなりそうだが。

 今日はお世話になりますって感じの挨拶と、美月さんと同居人としての挨拶。


 同居人としての挨拶に関しては、隼人がいないときにしなくてはならない。

 バレるわけにはいかないからね。

 タイミングとしては、隼人が寝た後か、風呂に入っているときか。その辺りだろう。


 よし、まずは一回目の挨拶へと向かおう。


 ♢


 リビングへ行くと、モデルのような女性と綺麗に整えられた顎髭が特徴的な男性が並んでソファに座っていた。

 美女とイケオジだぁ……!


 なんとも理想的な夫婦。


 聞かずともわかる。

 この二人が美月さんたちの両親だろう。

 そりゃ、この二人の子供ならそりゃ美形にもなるよなぁ。


「お父さん、お母さん。流星くん来たよ~」


 美月さんの声に反応するように、二人はソファから立ち上がり、にこやかな笑顔で俺の前まで歩み寄ってきた。

 まるで有名人に会っているような感覚に陥りそうになる。それほどの風格が、この二人にはある。


 思わず「握手してもいいですか?」とか「サインください」とか言ってしまいそうになるが、それを堪えて俺は緊張で震える声で挨拶する。


「は、初めまして! 隼人の友達の三嶋流星ですっ! 今日はよろしくお願いしますっっ!」


 ここは『隼人の友達』として自己紹介させてもらった。

 二回目の挨拶では『美月さんの同居人』として挨拶をすることになるだろうけど。


 緊張で声が震えまくった自己紹介をした俺を見た美月さんたちの父親はポンポン、と俺の肩を軽く叩いて、穏やかな笑顔を見せた。


「はははっ、そんなに固くなりなさんな。隼人からよく話は聞いている。ここを第二の実家と思ってくれていいから」


 低音で、心に直接響いてくるような声。

 この人に言われれば、どんなにおかしなことでも信じてしまいそうな声と、話し方だ。


「あ、ありがとうございますっ!」

「肩の力を抜いて、楽しく過ごしなさいな。何かあればいつでも私たちに言ってくれればいいからね」


 今度は心が落ち着くような透き通った声が響いてきた。

 このまま目を瞑れば、眠ってしまいそうなほどリラックス効果のありそうな声だ。


 この夫婦は外見だけじゃなく、声まで良いらしい。


「挨拶は済んだろ? それじゃ、今度こそ俺の部屋行くぞ!!!」

「ちょ、引っ張るなってぇ~!」


 挨拶を終えた瞬間、隼人は俺の腕を強引に引っ張り、自分の部屋へと連れて行く。

 隼人の両親は呆れた表情で隼人のことを眺めていた。そして、美月さんは不満そうに溜め息をついていた。


「よっしゃ、ゲームだゲームぅ~!」

「随分と嬉しそうだな」

「そりゃ、親友のお前が泊まりに来てるんだぞ? 嬉しいに決まってるじゃん!」

「そ、そうか。ありがとう……」


 隼人はこういうことを恥ずかしげもなく言うことがあるんだよな。

 まあ、嬉しいんだけどさ。


「普段なら姉ちゃんに構ってもらうとこだけど、今日は姉ちゃんよりもお前に構ってもらう!」

「シスコンの隼人にしては珍しいな」

「それくらい親友っていうのは特別な存在なんだよ」


 隼人は俺のことを指差し、そんなことを言う。

 こいつに羞恥心は存在しないのだろうか。


「俺のことを恥ずか死させようとしてるだろ」

「なんだそれ」

「いや、なんでもない」

「そんなことより、早くゲームしようぜ!」

「おう。やるか」


 とりあえず、気を紛らわせるためにゲームで隼人をボコボコにしておくとしよう。

 毎日、部活漬けの日々を送っている隼人に、帰宅部の俺がゲームの腕で負けるはずがない。

 とはいえ、こいつの順応力は異常に高いことは知っている。油断禁物だ。


 ♢


「よっしゃァァアアア! これで六勝五敗で俺のほうが強いことが確定したな!」


 一対一の格闘ゲームをしたのだが、十戦した段階では五勝五敗だったのだが、十一戦目で俺は操作ミスをしてしまい隼人に敗れた。

 マジでこいつの順応力おかしいだろ。


 毎日部活でゲームする時間なんてそんなにないはずなのに、この上手さかよ。

 最後は操作ミスで負けたとはいえ、その前の時点で五勝五敗だったのがいけない。

 今日は俺の調子が悪かっただけだ。うん、そういうことにしよう。


「なんでそんなに上手いんだよ。毎日、部活あるのに」

「ふふんっ……才能ってやつ、かなっ」

「うぜぇ~」

「はっはっは! 何とでも言え。勝者こそ全てなのだぁ~!」

「くそぅ……」


 負けたから強く出れないので、隼人のドヤ顔をしばらく眺めることになった。

 明日、もう一度再戦を挑もう。何なら夕飯の後にでも。


「よし、勝って気持ちが良いまま風呂に入ってくるぜ」

「おう。俺はお前に勝つ対策を考えとくわ」

「せいぜい頑張りたまえ」

「そのドヤ顔も今だけだからな!」

「それはどうかな~♪」


 最後までドヤ顔のまま、隼人は風呂場へと向かって行った。

 よし、今のうちに隼人に勝つための対策を練ろう。


 ――そう思っていた時だった。


「ねぇ、流星くん。今、大丈夫?」


 部屋に美月さんが入ってきた。

 あ、そうか。をするには最適のタイミングだな。


「うん、大丈夫だよ」

「オッケー。それじゃ、行こっか」

「……う、うん」


 ゲーム中は忘れていた緊張感が再び襲いかかるが、深呼吸をして抑える。

 美月さんと共に部屋を出て、リビングへと向かう。



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