犬猿の仲の女子——の、妹だけが俺の良さに気付いてくれている。だから俺も、優しい幸薄美少女を全力で愛でて幸せにすると決めました。だから頼む! 邪魔しないでくれ!!

仲村アオ

第1話 犬猿の女子……お願いなので放っておいてください!

「ねぇ、音無くんの叔父さんって……ゲイバーで働いてるって本当?」


 悪意たっぷりな嘲笑を含んだ言葉が、俺、音無おとなしれんに向けて吐き出された。


 確かにそうだ。俺の叔父、三条さんじょう雅治まさはるはゲイバーで働く、凛と胸を張るオネェだ。


「あぁ、そうだけど? だからって別に——」


「ほらほらぁ! 私の言うとおりだったでしょ! だって、私のママが言ってたもん! 音無くんの叔父さんは『黙りやがれ男爵』で働くオネェで、子供からペケモンカードを奪いまくる意地悪なオタクなんだよ!」



 語弊を含んだ言葉に、俺は思わず言葉を失った。


 いや、確かに叔父はゲイバーで働いているオネェだけど、それがお前たちになんの関係があるって話だし、何よりも後半は勝手なデタラメだ。


 叔父はこの辺りではそこそこ有名なペケモンカードユーザーで、動画配信なども行なっている。強いオネェで話題になったのだが、叔父はそんな人物ではない。むしろ……


「もっとペケモンにハマる子供たちが増えて欲しいから」


 そう言って、レアカードを無償で配るくらいなのに。



「最悪だよね。あんな人の家族がクラスメイトだなんて……」


 悪意を含んだ視線が俺に集まる。小学校高学年、多感な時期……。

 友達にハブられてしまえば、あっという間に日常が地獄と化す。



 だが、何もしていない叔父を悪者にするなんて、俺にはできなかった。

 プルプルと震える拳を握りながら、俺は必死に声を絞り出した。



「っせー……この…………よ!」


「え? なぁに、音無くん」


「うるせーな、この性悪女! 叔父さんは何も悪くねぇよ!」


「キャー! 最悪よ! やっぱり子供相手にレアカードを奪いまくる鬼畜オネェの家族ね! みんな、音無くんに近づかない方がいいわよ!」


 クラスのカースト上位に君臨する早瀬はやせ真由まゆの言葉を鵜呑みにし、その日を境に同級生は俺から離れていった。



 くっ、でも俺も叔父も何も悪くない。

 こんなの一過性のものに過ぎない。そう思っていたのだが、真由の嫌がらせは終わらなかった。

 事あるごとに俺と叔父の悪評を言いふらして回っていた。



「音無くんって、見た目はカッコいいけど性格は鬼畜で自己中心で最低な男なんだよ? 彼に近づいたら性悪オネェが襲ってくるわよ!」



 そんな真由のせいで、俺は高校二年生まで一度も彼女ができることなく、寂しい青春時代を過ごしていた。


 本当にあり得ない。そんなに俺のことが嫌いなら違う学校に通えばいいのに、真由まで同じ高校に入ってきた。


 こんなことなら男子校に通えばよかったのに、「もしかしたら新天地で可愛い彼女ができるかもしれない」という、淡い期待を抱いたのが運の尽きだった。



「皆、気をつけてー。生徒会長の音無蓮は、性悪で女の子が大っ嫌いなゲイ疑惑のある男だからねー。男子も女子も近づいちゃダメだよー?」


 くっ、こいつ……!

 一体俺に何の恨みがあるんだ!?


 流石に高校生ともなると、噂を鵜呑みにする人は少なくなってきたが、それでも俺に好意を抱いてくれる女子はゼロだった。


 自分で言うのも何だけど、見た目も悪くないはずだし、清潔感だって人一倍気をつけている。身長だって一八〇センチ超えの細身で、筋トレとランニングも毎日10キロは続けている。

 テストだって首席ではないが、上位5位をキープしている。


 ——強いて言うなら、口の悪さが悪化したことは自覚はしている。


 そう、困っている女子がいて助けてあげても、つい恥ずかしくて誤魔化していたことは否定できない。



「ったく、お前……どんくせーな(少女漫画風)」


「ご、ごめんなさい……! これからは音無先輩の手を煩わすようなことはいたしません!(ガチ怯え)」



 そして全力で逃げていく女子生徒。

 いや、違う……俺が望んでいる展開はそれじゃない!


 小さくなっていく背中を見届けながら、俺はひっそりと涙を流す日々を送っていた……。



 そんな俺を唯一肯定して応援してくれるのは、オネェバーで働く叔父、雅治だった。


「もう、蓮は不器用なのよねぇ。こんなに良い子なのに、未だに彼女ができないなんて信じられないわ」


 雅治はジントニックを注いだグラスを片手に、爽やかに氷を鳴らしながら喉に流し込んだ。

 数年の月日が流れ、今では身長以外は男の要素がほぼ消えた美女になっていた。そしてどんな中傷的言葉を受けても、常に自分を貫き続ける叔父に、俺は昔と変わらない尊敬の意を抱いていた。



「でもね、大丈夫よ。きっといつか蓮の良さに気付いてくれる女の子が現れるわ」


「本当に現れるんかな……。俺、無理な気がしてきた」


「アハハハ、その時はオネェになって、良い男と恋をしなさい! 私のお店で雇ってあげるから♡」



 いや、一回くらいは女の子と恋愛したいので、もう少し努力をしてみたいと思います。

 ——っとは言いながらも、本当……そんな子が存在するのだろうか?


 真由の影響とはいえ、誰一人として俺を見てくれない現実。

 俺は諦めにも近い溜息を吐きながら、グッと涙を堪えた。




———……★


数ある小説の中から、仲村の小説を読んでくださり、ありがとうございます!

やっとカクヨムコンが始まりましたね!

今回、音無と澄恋の話をリメイクして新作にしてみました!


可哀想なクール社長令嬢、俺にだけデレる顔がものすごく可愛い——ただ、君の思う100倍は愛が重いですが、大丈夫ですか?

https://kakuyomu.jp/works/16818792440582211666/episodes/16818792440583188046


コチラは完結しているので、見てみてください✨

また、よろしければ★や応援など頂けたらと嬉しいです♪

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