第8話 お礼なんて何度言ってもいいでしょ?

「そんで、何かしらの進展はあったのかよ」

「……進展? 桐生は何を言ってるんだ」

「編入生様との甘い放課後の話に決まってるだろ」


 蓮水の学校案内をした翌日。

 ニヤニヤと笑みを浮かべながら肩を組んでくる桐生へ、渋い顔で言い返す。


 学校案内をするのにどうやったら甘い放課後だとか進展だとか、その手のワードが出てくるのか理解に苦しむ。

 男と女が一人ずついれば必ず恋愛に発展すると思っている恋愛脳なのか?

 しかも、そこらで何人も聞き耳を立てているのが恐ろしい。


「あり得ない話をさも当然のように語るな。ゲームオタクと元アイドルがどうやったら仲良くなるんだ」

「案外あるかもしれないぞ。編入生様が実はゲーム大好きで、話が合ってしまった二人は次第に仲を深め、甘い恋のその先へ――」


 桐生の妄想なのに、冒頭部分は事実で少々驚いてしまった。

 動揺を表情に出すことはなかったと思うが、どうだろう。

 ……いやまあ、バレたところで構わないけど、蓮水はイメージ的に困りそうだし。


「以前『仮に彼女がいたとして、彼女とゲームどっちを優先する?』と聞かれて、迷わずゲームって答えた俺に恋愛は無理だろ」

「考えが変わっていてもおかしくないだろ。俺たちは高二、多感で繊細な思春期真っ盛りじゃん? 恋の一つや二つ、三つ四つは経験して然るべきだと思うんだ」

「さりげなく自分の女癖の悪さを肯定しようとするな」

「俺って別に女癖悪くないと思うんだよなあ。自分から告白したことないし。彼女が変わるのもその時々で好みの顔が変わるからで」

「割と酷いことを言ってる自覚は?」

「ソシャゲで新キャラ出る度に『大好きです引きます』って言ってる奴と同じだと思うんだけどなあ。結局外見が好みじゃないと中身の話にならなくない?」


 ……そう、なのか?


 中身を知るには外見が大事、という理屈はなんとなくわかる。

 わかるのだが、あまりにも明け透けすぎると思ってしまう。


「中身は外見だけで測れないと思うけど」

「正論だけど、考え方が善性過ぎる。世の中そんなに甘くないって」

「高校生で世の中を語るな」

「俺、経験豊富だからさ」


 否定できないのが悔しい。

 経緯はどうあれ彼女が何人もいた経験があるわけで。


「どや顔してるところ悪いですけど、つい先日彼女と別れたって話してませんでした?」


 横合いから入る声は桔梗のもの。

 声に混じる呆れが、二人の長い関係性を感じさせる。


「雫は今日も冷たいなあ。彼女と別れた憐れな男を慰めるくらいしてもいいじゃんか」

「自業自得です。あと、鬱陶しいので下手な泣き真似はやめてください」

「遊馬~雫が冷たいよぉ~」

「すり寄って来るな気色悪い」

「ほんとですよね。話は変わりますが……遊馬さん、昨日はありがとうございました。ちゃんと学校案内をしてくれたと蓮水さんから聞きましたよ」

「頼まれたからにはな」


 信頼して頼んでくれたのだから、裏切るような真似は出来ない。


「当たり前のことを当たり前にしてくれるのが本当に助かります。他の男子ならこうはいきませんよ。余計な欲をかかないとも限りません」

「遊馬はそこの心配いらないからな。この通りの朴念仁だし」

「言うほど朴念仁ではないでしょう。不愛想ですが、話せばわかってくれます」

「……褒められてるのか貶されてるのかどっちだ?」

「俺は褒めてるつもりだけど?」

「寡黙で誠実と言い直しましょうか」


 桔梗目線ではそういう人間に見えるらしい。

 自己判断的には寡黙は怪しく、誠実は……まあ、そうありたいと思っている程度か。

 悪印象を抱かれていなくてよかったという思いが半分、他人からの印象なんて気にしても仕方ないのが半分。

 都合のいいようにしか受け取らない人は想像よりも多いし。


 そうこう話していると教室がにわかにざわめく。

 何事かと思えば件の人物、蓮水が登校してきたようだ。

 席に着くまでに何人ものクラスメイトが話しかけ、蓮水も嫌な顔せず応えている。


 やっぱり俺とは住む世界が違う人間なんだろう。

 ゲーセンでのあれこれは蓮水の気まぐれ。

 俺のようにゲームしか取り柄のない人間に構う必要はないはずなのに。


 遠目に蓮水を眺め、そんなことを考える。

 すると、人垣の間から、にこやかに話す蓮水と目が合って。


 会話に一区切りつけた蓮水が近付いてきて、


「おはよう、竜胆くん。昨日は送ってくれてありがとう」


 急にそんなことを言いだした。

 桐生と桔梗の表情が固まり、視線が俺へ。

 蓮水の言葉を聞いていたクラスメイトの注目が痛いほど集まる。


「は? 送って? ……遊馬も男だったんだな」

「違う。学校案内で遅くなったから近くまで送っただけだ」

「暖かくなると不審者も増えますし……蓮水さんに目をつける人がいないとも限りません」

「経験がなかったとは言わないわ。おかげで安心して帰れたから、お礼を伝えに来たのよ」

「……去り際にも言われたと思うけど」

「お礼なんて何度言ってもいいでしょ?」


 ふふ、と笑む蓮水。

 俺とは何もなかったというのを示すためだろう。

 一緒に帰ったという事実だけで恨みを買いそうだが。


 ……ゲーセンで遊んでるのがバレたらどうなることやら。

 いや、あれは蓮水が勝手に因縁をつけてきているだけか。

 あれで俺が悪いと言われても困る。


「この様子だと学校案内はちゃんとしてくれたみたいですね」

「桔梗さんの紹介通り、紳士で助かったわ。みんなこうならいいのに」

「ほんとですよね。らしいですよ、桐生」

「俺だって紳士の端くれだろ!?」

「変態、と枕詞がつかないといいな」

「確か矢車くん、よね。……変態なの?」

「違う! お前らも変な誤解を植え付けるな!!」


 慌てた風に弁明する桐生。

 仕返しはこんなもんでいいよな。



―――

まったく伸びないためタイトルキャッチコピー変えて様子見。

星5000兆個増えろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

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