第9話 こんな美少女とつきっきりでゲームできるんだから喜んでほしいくらいね

「やっと来たわね。何分待たせるのよ」


 朝から蓮水と話す想定外に見舞われ、クラスの男子から普段は感じない注目を集めながらも迎えた放課後。

 身体に染みついた習性が俺をゲーセンへと向かわせ――入口前で腕を組みながら佇んでいた蓮水が、俺を見つけるなり不機嫌そうな声音で口にした。


「蓮水が勝手に待っていただけじゃないか?」

「昨日再戦の約束したじゃない」

「だから来ただろ」


 俺とて約束を破るつもりはない。

 リベンジをしたいと望む気持ちは理解できる。


「それより、なんで外で待ってるんだ」

「竜胆くんを見逃さないためよ」

「昨日の元マネージャーに見つかったら」

「また竜胆くんに送ってもらえばいいわ」

「蓮水がいいならそれでもいいけどさ……」


 そういうのは信頼のおける相手に頼むべきではないだろうか。

 昨日のは不慮の事故で処理するとしても、常態化するのはよろしくない。

 学校の人に見られたら誤解されるし。


 普段より視線を気にしつつゲーセンの中へ。

 目的の格ゲーコーナーは昨日と違い空いていた。


「今日こそ私が勝つわ」

「頑張ってくれ」

「他人事過ぎてむかつくんだけど」


 勝手にキレかけている蓮水をよそに筐体へ座る。

 頭の中で戦略を練りつつ、財布の中から百円を探し――隣の筐体に蓮水が座った。


「……なんで隣?」

「隣でも出来るんだからいいでしょ」

「いやまあそうだけど」

「見られて困るゲームじゃないわ。それとも、私が隣だと集中できない?」


 意味深な笑みを刻む蓮水に問われる。

 集中できないのはその通りだが、蓮水限定ではない。

 誰であっても同じこと。

 そう言い張っても言い訳と受け取られそうだ。


「画面を覗き込んだりするなよ?」

「……私を何だと思ってるの?」

「沸点低めの典型的な格ゲーマー」

「竜胆くんの前で本気でキレたことないから。これくらいは普通よ、普通」

「無自覚煽りは手に負えないぞ」

「アイドル時代はお金を払ってでも言ってもらいたい人が大勢いたけど?」

「社会の闇を暴くな」


 人間とはかくも業が深いのか。

 直接言ったのかSNSでの発言なのかで変わるけども。


「ともかく再戦よ。今日は勝つから」

「はいはい」

「……私が典型的な格ゲーマーなら、竜胆くんは冷笑系ゲーマーじゃない?」


 一理ある。



 そうこうあって始まった再戦だが――結果は俺が二先しての勝利。

 今回は一本も取られず、完全な勝利と言えるだろう。


「…………っ」


 口先を尖らせ、悔しさを前面に押し出した表情の蓮水を横目で捉えながら、どんな言葉をかけるべきか迷いに迷う。

 正々堂々戦った結果に言い訳はできない。


「……再戦、するか?」


 だからもう1クレやるかと聞いてみれば、恨みがましい視線が注がれて。

 そのまま見合って数秒。

 軽いため息の後、椅子を引いて立ち上がり、


「今日のところは完敗よ。今日のところは、ね」

「負けん気が強すぎる」

「二回負けた程度でへこたれるとでも?」

「そうであって欲しいと思ってた」

「……最低でも私が勝つまでやってもらうから」

「粘着は嫌われるぞ」

「こんな美少女とつきっきりでゲームできるんだから喜んでほしいくらいね」


 世間一般的な価値観に基づけば否定できない、無駄に強固な自信が恨めしい。


「それで、今日のところはってことは終わりでいいのか?」

「ゲームは、ね。この後時間ある?」

「用件次第だな」

「それ嫌われるからやめた方がいいわよ」

「蓮水に嫌われても問題ない」

「私にそんな言葉をかける人、竜胆くんが初めてよ」

「そりゃあ光栄だ」


 嫌味にも屈せず肩を竦めて答えるのみ。

 俺は本当に蓮水と距離を置きたいのに、ゲーセンだけでも関係が続くのは非常によろしくない。

 ゲームをするのが楽しい楽しくない以前の問題だ。


「……で、用事って?」

「昨日、私のこと送ってくれたでしょ? そのお礼がしたいの」


 何かと思えばそんなことか。


「礼なんていらない。貸したとも思ってないし」

「竜胆くんは多分本心から言っていると思うけれど、私はその言葉を百パーセントの確度で信じられない。……理屈は理解してもらえる?」

「なんとなく。言葉の裏では何を考えているかわからない、って話だよな」

「そうね。だから竜胆くんが貸したと思っていないと言っていても、本心では何かの拍子に『あの時送ってあげたから何かして』とか言いださないとも限らない、と考えてしまうの」

「……アイドル時代になにかあったのか?」

「幸い、何も起こらなかったわ。……危ないことは何度かあったけれど」


 苦い顔の蓮水。

 リスク管理の問題なら仕方ないか。


「わかった。そういうことなら協力する」

「そう言ってもらえると嬉しいわ。それじゃあ行くわよ」

「どこへ?」

「カラオケなんてどう? 竜胆くんは私のことをアイドルだと思っていないみたいだから、少しくらい見せてあげてもいいと思ってるの」

「リスク管理の話をしていたのに、密室で二人になる場所を選ぶのはどうなんだ?」

「……それもそうね。じゃあ、喫茶店……は引っ越し前の近くにあったお店しか知らないし」

「ゲーセンで良くないか? 変わり映えがないのが嫌と言われればそれまでだけど」


 ゲーセンでも俺たちがやっているのは格ゲーと音ゲーだけ。

 でも、ゲーセンには他にもたくさんのゲームがある。

 そう考えての提案に、蓮水はしばし悩む素振りを見せ、


「竜胆くんがそれでいいならいいわ」


 賛同を示した蓮水の言葉に安堵し、俺も席を立つのだった。

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2026年1月12日 07:06 毎日 07:06

恋とゲームの1クレ目~元アイドルの美少女編入生を助けたらゲーム友達になった件~ 海月くらげ@書籍色々発売中! @Aoringo-_o

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