第7話 高二にもなって中二病なの?
「他のゲームもたまにやると面白いわね。全然下手だけれど」
「言うほど下手でもなかったと思うぞ?」
「フルコンしてる人に言われても嫌味にしか聞こえないから」
三曲セットの1クレを終えた俺たちは、音ゲーコーナーを離れて息をついていた。
1クレでも集中してるせいか、結構な疲労感がある。
日常的に音ゲーをやっている俺でこれなのだから、慣れない蓮水はもっとだろう。
「今日はリベンジのつもりだったのに、普通にゲームを楽しんでしまったわ」
「ゲームはそういうものだろ。格ゲーの再戦は持ち越しだな。放課後に2クレもやると帰るのが遅くなる」
「……そうね」
陽が高い時期といえど、遅くまで出歩くのは褒められた行いではない。
ただでさえ学校案内で時間を使ってしまったのだから。
「てことでまた明日だな」
自分で言っていて違和感が拭えない。
明日も蓮水とゲームをするのが決まっているみたいで、なんとなくむずむずする。
そんな気持ちを顔に出さず立ち去ろうとして、
「待って」
制服の裾を蓮水に摘ままれて引き留められた。
「……今日はやらないぞ?」
「それはわかってるから」
「イヤホンも返してもらったよな」
「それもわかってる」
「なら、どうして俺は引き留められているんだ?」
「…………」
蓮水が目線を逸らし、僅かな沈黙を返す。
気まずさを伴った表情。
衝動的か、意図してのことか、どちらにしても煮え切らない。
とはいえ、蓮水が考えなしにこのような行動を取るとも思えない。
蓮水とは出会って二日。
ゲーセンでも学校でも、碌に話したとは言えない。
されど、ゲームを通じて知った蓮水はつまらない嘘をつく人間ではないと考える。
であれば口に出来ない理由があると見た方がいいだろう。
俺はどうするべきか。
強引に蓮水の手を振りほどいて帰るのは簡単だ。
元より変な経緯から形成された、ゲーセンで遊ぶだけの間柄。
ここで帰ったとて恨まれる覚えはない。
それでも蓮水から漂う雰囲気に嘘が感じられず、全てを振り切って帰る気にはなれなかった。
「何か理由があるんだな?」
端的に問えば、顔を上げた蓮水と視線が交わる。
澄んだ空色の瞳に俺の姿を余すことなく映して。
ぱちり、長い睫毛を瞬かせながら頷いた。
「俺がいれば解決するのか?」
「……問題の先送りにしかならないけどね」
呆れた風に息を吐き、視線だけを外側へ。
俺もそれに倣って目を向けると、一人の男が目に付いた。
ゲーセンには似つかわしくないスーツ姿の、いかにも神経質そうな男だ。
ゲームを見繕っているような雰囲気を漂わせながらも、チラチラとこちらの様子を窺っている。
「……まさかと思うけどストーカー?」
「アイドル時代のマネージャーよ。引退に納得していないみたいで、復帰の交渉をずっとされていたの。連絡先も消したし、引っ越しもしたから撒いたと思ったのに……どうやって特定したのよ、全く」
呆れた雰囲気を装っているが、声に普段の覇気がない。
彼の用件が復帰交渉であろうとも、アイドルを辞めて関係を断ったはずの人間……しかも大人の男に付きまとわれているとなれば嫌気がさすのも頷ける。
それでいてはっきりと助けを求めなかったのは、俺を巻き込む形になるかもと考えたからだろうか。
蓮水はそういう部分を気にしそうな人間だと思う。
「竜胆くんを巻き込むつもりはない……って言ったら信じてくれる?」
「信じるも何も、まだ巻き込まれてないし。第一、蓮水は悪くないだろ。けど……これって蓮水が一人になるのを待ってるってパターンだよな」
「だと思うわ。まあ、何度交渉に来ても断るだけよ。こんなことに竜胆くんを付き合わせるのも悪いし」
「その割に引き留めたよな」
「……咄嗟のことを掘り返さないで」
またしても目を逸らす蓮水の頬は仄かに赤い。
これは流石に照れ隠しだと俺でもわかる。
事情はおおよそ理解した。
「蓮水、まだ時間はあるか?」
「え? ……ある、けど」
「それならもう1クレやるぞ。一度頭を切り替えよう。その後、差し支えがなければ家の近くまで送っていく」
「竜胆くんが私を?」
「嫌なら断ってくれていい。もし誰かに見られても学校案内で遅くなったから送り届けたと言い訳もできる」
どうだろうか、と聞いてみれば、蓮水は考え込むように顎へ手を当てた。
数秒に渡る思考の末に、
「……なら、お言葉に甘えさせてもらうかしら」
真面目な顔つきで口にし、小さく頷いた。
「ああでも、竜胆くんが送り狼にならないとも限らないわね」
「信用できないならこの話はなしでもいいんだぞ。俺は一向に困らないし」
「……ただの冗談よ。私に興味ないのはわかってるから。下心を感じる素振りがまるでないんだもの。私、そんなに魅力ない?」
「問いかける人間を間違ってるだけで世間一般的には魅力的だと思うぞ」
「まるで自分が世間一般には収まらないみたいな言い草ね。高二にもなって中二病なの?」
「それだけ軽口が叩けるなら大丈夫そうだな。先に帰ってもいいか?」
「ダメ。言質は取ってるんだから。それより……もう1クレやるんでしょ?」
袖が引かれる。
ふと向けられた蓮水の淡い笑み。
自然体に見えたそれこそアイドルとしての真価だったのだろうか、なんて益のない思考を重ねながら、音ゲーの筐体へ百円を投入するのだった。
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