第6話 ミスった時に首傾げてたからメンタルは立派な音ゲーマーだぞ

 気を取り直して、俺たちは音ゲーの筐体へ百円を投入する。

 プレイするゲームは『SoundCrash』――音楽に合わせて画面上部から降ってくるノーツにタイミングよくボタンを押すことでスコアを稼ぐ、一般的な音ゲーだ。

 ランクを気にせず遊ぶフリープレイと、ランクを上げるランクプレイがある。


 今回は蓮水と一緒なためフリープレイ。

 スコアには直結しないミニキャラを選び、店内マッチングをかける。


「……竜胆くんのランクって見間違いじゃなければ一番上よね」

「まあ、一応。それなりにやってるし」

「それなりにやるだけでランクが上がるなら苦労しないわよ」


 それは本当にその通り。

 プレイ時間にプレイヤースキルが比例するわけじゃない。

 レベルを上げれば何とかなるRPGと違い、プレイヤーの技術介入要素があるアクションゲームは特に顕著だ。

 格ゲーも音ゲーもそこは同じ。

 曲がりなりにも最高ランクに到達しているのは、少なからず才能が寄与していると思っていいのかもしれない。


 とはいえ、ランク的には最高でも、その中でさらにグラデーションが存在する。

 基本的に自分との闘いである音ゲーに置いては自己満足でしかないけど。


「そういう蓮水は……ほぼ初心者と思った方がいいのか?」

「多少齧ってる程度ね。難易度的には中程度までならクリアできるはず……あくまで一般的な基準での話よ? 最上位様のおかしな基準じゃなくてね」

「最上位までやってる人がおかしいみたいな言い方は余計な敵を生むぞ」

「常人じゃあ理解できないって意味では正しいでしょ」


 違う? と聞かれ、否定できないなと内心思う。


 音ゲーの場合は平然と実装初日の初見最高難易度曲でAPAll Perfect叩き出すし、格ゲーなら読みやらコンボが的確過ぎてまるで勝てる気がしない。

 対人系の上位勢は平然とチーターにも勝つしな。

 大抵はゲームの基礎がないから勝てるって理屈はわかるけどさ。


 俺はそこまで人間をやめていない。

 あくまで一般的なゲーマーの範疇に留まっていると思う。


「曲選択はどうする?」

「竜胆くんが決めていいわ。音ゲーはほとんどやらないからわからないし」

「なら遠慮なく」


 音ゲーに収録されている楽曲は良くも悪くもユニークだ。

 特に『SDCH』のような音ゲーらしい音ゲーには、一般人が耳馴染みのある曲は99パーセント入っていないと言っていい。

 その代わりオリジナル楽曲が沢山ある。


 曲調も様々かつ個性的で、数種類ほどのジャンルに別れている。

 俺が好きなのはEurobeat系……早めのBPMで疾走感を伴った楽曲だ。


 早速とばかりに一曲目からセレクトし、難易度選択。

 俺は一番上、蓮水は自己申告通りに真ん中。

 難易度の中でもさらに難しさが細分化されているが、これは比較的簡単な方だ。

 好みを押し付けただけじゃない。

 これでも蓮水がやりやすそうな難易度の曲を選んだつもりだ。


 音ゲー専用で持ち歩いているイヤホンを差し込み、耳に嵌める。

 音量と譜面のスクロール速度ハイスピを調節し、一曲目がスタート。


 ……基本的には一人プレイと言えど、隣に蓮水がいるのは緊張するな。


 ぞわぞわとした感覚を遠ざけるように、軽快なサウンドの海へ没頭していく。

 降り注ぐノーツを見極め、半ば自動化された運指で光らせる。

 次第に高まっていく集中力、増えるスコア。

 画面を満たす演出と、絶え間ないサウンドエフェクトが心地いい。


 格ゲーも、他のゲームも好きだけど、やっぱり音ゲーが一番だ。

 自分の世界に没頭できるし、曲とゲームシステムが融合した譜面は芸術的。

 何よりも一人で出来て楽しいのが、とても気楽で。


「あぁ…………もうっ、慣れない、わねっ」


 イヤホン越し、かすかに聞こえる蓮水の声。

 悪戦苦闘する言葉につられ、横目で盗み見ると、必死に目線を上下させながら映像を追っていた。


 拙げな手元、曲のリズムに揺れる身体。

 リズム感はアイドルをやっていたから優れているのだろう。

 けれど、それだけで出来るほど音ゲーは簡単じゃない。

 ミスを刻んだ瞬間に首を傾げながらも僅かに上がった口の端が、根っからの負けず嫌いなゲーマーなのだと示しているようで。


「あ」


 よそ見をしている間に通り過ぎたノーツでコンボが切れる。

 思わず首を傾げ、ペースを取り戻そうとボタンを押してパーフェクトを繋ぐ。


 そうしているうちにウイニングランへと突入。

 気持ちゆったりとしたメロディと控えめなノーツを取りこぼすことなくスコアに変え、一曲目が終了した。

 イヤホンを外して蓮水の様子を窺えば、同じくこちらへ顔を向けた蓮水と視線が交わる。

 ……けれど、なんと言えばいいのかわからず、数秒無言の時間が続いて。


「久しぶりにやったけれど、意外と出来るものね」

「……やってないって言ってた割に上手いな」

「ワンミスの最上位様に言われても皮肉にしか聞こえないわ」

「誰でもミスる時はミスるだろ」


 ミスの理由が蓮水のプレイを盗み見ていたから、とは言えない。


「それより、やっぱりイヤホンがあった方がやりやすいの?」

「基本的にはそうじゃないか? 雑音に乱されなくなるし、曲のリズムも掴みやすくなる。蓮水は――」

「普段音ゲーやらないのに有線のイヤホンを持ち歩いてるわけないでしょ。時代はワイヤレスよ」


 ぐうの音も出ない正論だ。

 有線のイヤホンは完全に音ゲー専用で持ち歩いていている。

 無線にも対応してくれたらいいなと常々思っているけど、色々あるのだろう。


 それはともかく。


「……予備はあるけど、貸そうか? あ、ちゃんと綺麗にしてあるから」

「どこの心配をしてるのよ。……けどまあ、そうね。予備があるなら借りるわ」


 少し迷って、蓮水は提案を受け入れる。

 音ゲーをやるならイヤホンはあった方がいいからな。


 鞄から予備を取り出し、手渡せば「ありがと」と一言あって、筐体へ接続した。


「これで私も音ゲーマーっぽいわね」

「ミスった時に首傾げてたからメンタルは立派な音ゲーマーだぞ」

「嘘。……ほんと?」

「本当」

「完全に無意識だったわ。竜胆くんもそうなるの?」

「習性みたいなものだからな」


 ミスった時の首傾げは様式美だ。


「さて、二曲目をやるわよ」

「結構楽しんでそうだな」

「世の中のことの大半はやれば楽しいの。竜胆くんも楽しい?」

「そりゃあまあ、好きなゲームだし」

「私と並んで音ゲーなんてそうそう出来ることじゃないわ。この思い出を心に刻んで咽び泣いてもいいのよ」

「そうはならんだろ」


 蓮水のファンならいざ知らず、調べるまで存在すら知らなかった俺に求めないでくれ。


―――

音ゲーマーはミスると首を傾げる、これはマジ

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