第5話 そんなに一人プレイが好きなら一生トレモに籠ってなさいよ

 学校案内もそこそこに、俺は蓮水と共にゲーセンへ向かった。

 元々は別で向かおうと思っていたけど、蓮水が「わざわざ一度別れて合流するのは無駄じゃない?」と言いだした。

 理屈的にはそうなのだが、学校外でも蓮水と一緒にいるのを見られたら面倒事になるのが目に見えている。


 しかし、それは蓮水も承知の上で、あえて誘ったのは一人でいると変なのに絡まれるから、だそうだ。

 要するに俺の役割は男除け。

 桔梗からも時折聞く話だけど、蓮水ほどにもなると頻繁にあるのだとか。


 一人では感じない量の視線を集めつつゲーセンまでの道のりを歩き、格ゲーコーナーへ到着した……のだが。


「混んでるな」

「そうみたいね」


 格ゲーに並ぶ人が妙に多い。

 俺たちの順番までに数人分は待つ必要がありそうだ。


「どうしても今日やるのか? 順番を待っていたら遅くなりそうだけど」

「……そのつもりだったけど迷うわね。暗くなると色々危ないし」

「てことは後日に持ち越しってことで」

「でも、折角来たのに何もしないのももったいないわ」

「学校帰りの寄り道に勿体ないも何もあるのか?」


 来ようと思えば毎日でも来れるのだから、今日は諦めて帰ってもいいだろう。

 ……そのままの足で音ゲーコーナーへ向かおうとしている俺が言うのもどうかと思うけど。


「蓮水は格ゲー以外もやるのか?」

「機会がないとやらないわね。あんまり上手くもないし」

「それは単にやってないだけだろ。一つのゲームをそれなり以上の実力までやり込めるなら、他ゲーもやればそこそこものになる……と思ってる」

「否定はしないわ。試しに竜胆くんおすすめの音ゲーでもやってみる?」

「蓮水がやりたいなら別にいいけど」


 ゲームは強制されてやるものじゃない。

 やりたいと思ってやるなら大歓迎だ。


「対応が塩過ぎない? 少しくらい喜ぶ素振りを見せたらどうなのよ」

「何に対して喜べと」

「私と一緒にゲームできることに」

「そういうのはファンクラブでやれよ」

「嫌。ああいう人が見ているのはアイドルの蓮水アリナであって、私じゃない。現役ならまだしも、私はもう辞めたの」

「意外とめんどくさい性格してるな」

「……少しはデリカシーを学んだら?」


 やや不満げな視線が注がれるも、これは俺が悪いのだろうか。

 この流れを振ったのは蓮水だろうに。

 第一、俺が蓮水に興味を持っていないのは、蓮水もわかっていたことだ。


 意識され過ぎるのは嫌だけど、全く意識されないのも癪に障ると言われても、じゃあどうしろという話。

 本来なら関わりたくない相手だと考えていたのに、律儀に昨日の約束を守ろうとしただけで褒められるべきじゃないか?


 まあ、デリカシーがないのは百歩譲って認めよう。

 異性とまともに話す機会は少ない。

 ゲームで忙しいのだから、これも仕方のないこと。


「いや待て。そもそも変に気を遣われてもやりにくいだろ。所詮はゲーセンで一戦遊んだだけの関係だぞ」

「……そんなに私と対戦するのが嫌だったの?」

「蓮水限定ではなく、誰かとゲームするのに慣れてないだけだ」

「オンラインで誰とでも遊べる現代で?」

「ゲーセンでの対面は別だろ。画面の向こうじゃなく、手を伸ばせば届く距離に対戦相手がいる。オンラインで戦うのとは空気感が違う」

「でも、それはそれで楽しいでしょ?」

「……楽しめる相手と一緒なら、そうかもな」


 思い起こすのは苦い記憶。

 筆舌にしがたいあの感覚は、高校生になった今でも色褪せていない。


「――少なくとも私は竜胆くんと対戦して楽しいと感じたわ。結果としては負けたから、同じくらい悔しかったけれどね」


 蓮水は俺の声の調子や微細な表情の変化から何かを感じ取ったのだろう。

 視線を合わせないまま隣を歩き、静かな調子で告げる。


「竜胆くんは違った?」

「……わからないな」

「なら言葉を変えるわ。私とゲームをするのは嫌?」


 蓮水とゲームをしていて楽しいかどうかから、蓮水とゲームをすること自体への好悪へ思考が移る。


 俺はそもそも誰かとゲームをするのが苦手だ。

 オンラインなら意識せずにいられるが、オフラインはまだ抵抗感がある。

 そんな中で昨日、蓮水と対戦したわけだけど……やはりぎこちなさは拭えない。


 とはいえ、嫌かと問われれば――


「……嫌ではない、と思う」

「そ。ならいいの。私も私を嫌いな人をわざわざ付き合わせるのは気が引けるし」

「自分から進んで蓮水とゲームがしたいとは思ってないぞ?」

「余計なことは言わなくていいの。ゲームは一人より二人の方が楽しいんだから」

「音ゲーって基本一人プレイじゃないか?」

「……そんなに一人プレイが好きなら一生トレモに籠ってなさいよ」


 頬を引きつらせながら反論する蓮水。

 流石に言葉選びが悪かったなと反省するものの、トレモに籠るのは結構好きなんだよなあ。

 ひたすらコンボの精度を上げていたら、いつの間にか時間が経ってるのはざらだ。

 蓮水も格ゲーマーなら理解してくれると思う。


「ともかく……やるの? やらないの?」

「音ゲーはやるけど、スコアでも競うつもりか?」

「普通に遊ぶだけよ。音ゲーは浅いから、私が負けるのが目に見えてるもの」

「絶対に相手の土俵では戦わない、と。……自分の土俵でも負けてるのに?」

「人に煽るなって言っておいて自分が煽るのはどうなのキレていい?」


 すまん、口が勝手に。


―――

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