第4話 私と二人きりの放課後を過ごせるんだから
午後の授業を終えて、放課後。
桔梗から相談された通り、俺は蓮水の学校案内を務めることになった。
「それじゃあ竜胆くん、学校案内よろしくね」
学校で始めて話す蓮水は至って落ち着いている。
ゲームとなると人格が変わるタイプなのか?
単に学校という場に即したキャラを作っているだけかもしれないな。
元アイドルならばそういうのも得意だろう。
「ああ。とはいっても普通の学校だと思うぞ」
「明日、桔梗さんに聞かれた時の答えがどうなるかは竜胆くん次第よ」
「脅されてるのか?」
「普通のコミュニケーションじゃない。そういうことだからよろしく」
全てを丸投げされた気がするけど、頼まれたからにはやるしかない。
特筆するべき施設はないし、全体を案内して解散にしよう。
「それと――約束、忘れてないからね?」
「……なら、尚更早く済ませないとな」
蓮水にとっても学校案内は前座。
桔梗の申し出を断れなかっただけだろう。
それならばと気を改め「ついてきてくれ」と声をかけて歩き出した。
隣を歩く蓮水と二人分ほどの間を開けて学校施設を巡っていく。
放課後は部活動に使われている特別教室、昼休みには昼食を求めて長蛇の列ができる購買、バレー部やバスケ部が精を出している体育館、施錠されている屋上へ続く階段――普通の高校で案内するような場所はこの程度しかない。
「言った通り何の変哲もないだろ?」
「だとしても、案内してもらわないことにはわからないわ。定番の告白スポットなんかもあるのかしら」
「体育館裏がそうらしい。俺は縁がないけどな」
「私はそのうち行くことになりそうね。……本当に憂鬱だけれど諦めないと。恋人なんて作る気ないのに」
心底めんどくさそうに眉を寄せながらため息を一つ。
モテるから困る、というアピールには見えなかった。
「アイドルは恋愛禁止と聞くけど、蓮水もそうだったのか?」
「そうね。まあ、あんなのは表向きよ。裏ではちゃっかりやることやってる子もいるし……ああ、幻想を壊してしまったならごめんなさい」
「いや、別に構わない。アイドルに興味はないからな。蓮水を知ったのも自己紹介の後に調べたからだし」
「それは高校生としてどうなの? 私、自分で言うのもアレだけれど、結構有名人だったのよ?」
「らしいな」
端的に返すと、蓮水は足を止めて再度ため息。
そこまで呆れなくてもいいだろ。
「一応言っておくけれど、私の案内人も取り合いだったんだからね? 部活休むだとか、俺の方が相応しいとか……最終的には桔梗さんが決めた竜胆くんになったわけだけど」
「俺としては面倒事を押し付けられただけなんだが」
「その感想がおかしいの。普通、泣いて喜ぶべきなのよ」
「自己肯定感が高くて何よりだ」
「……本当に興味ないのね。その方が私としてもありがたいけれど。こう見えて男の人がちょっと苦手なの」
「…………ゲーセンで逆ギレしてた男を煽り返してた奴が言っても説得力ないぞ?」
「わかってるわよそんなこと」
訝しみつつ視線を流せば、少々むっとした風に鼻を鳴らしてそっぽを向かれた。
「でも、私はアイドルだったのよ。男性が最大の顧客。男嫌いなんて言ったら活動に支障が出るわ。だからこそ処女性が担保される、みたいな考えの熱心な人もいるけれど」
「難儀な仕事だな」
「そうなのよ、本当に。他にも色々苦労というか悩まされるというかストレスにしかならないようなことが色々あって、受験で時期も丁度いいからやめちゃったわ」
「その裏話、俺なんかに言っていいのか?」
「竜胆くんは言いふらしたりしないでしょう? 私の引退理由なんてどうでもいいでだろうし」
「だとしても、そこまで話す必要はないだろ」
さっぱりとした様子で言い切る蓮水へ、俺のことを信頼し過ぎではないかと苦言を呈する。
俺に邪な気持ちがあれば蓮水の嘘を理由に迫っていたかもしれないのに。
男嫌いというには警戒心が足りていないように思える。
「そうね。でも、人を見る目には自信があるの。竜胆くんは信頼できると思ったのよ。お人好しで、私に興味がなくて、変な勘違いもしない。違う?」
「昨日助けたのは俺の居心地を良くするためだ。蓮水に興味がないのはその通りだし、勘違いするつもりもないけど、俺と一緒にいて誤解されるのは蓮水も同じだろう?」
「私が竜胆くんと一緒にいても、男子たちは関係性を信じたくないからいいの。むしろ困るのは竜胆くんよね。迷惑をかけたらごめんなさい」
「気を遣うところが違うだろそれは」
「私と二人きりの放課後を過ごせるんだからおつりがくるレベルよ?」
元アイドルなのを考えると否定も出来ないのが悔しいところだ。
しかしまあ、気を遣わなくていいと言われているようで気分的には気楽か。
……明日、根掘り葉堀り聞かれるであろうことを考えると憂鬱だけど。
「約束通りゲーセンも行くのか?」
「当然。というかそっちが本命でしょ。それとも……負けるのが怖いの?」
「男嫌いなら煽るなよ。いつか痛い目を見るぞ」
「ゲームが絡むと止まらないのよ」
「……学べよ、流石に。てか、急にスイッチ入ったな」
「オンオフの切り替えが大事なの」
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