第3話 彼女とゲームどちらかを選べと迫られたら

 蓮水とゲーセンで遭遇した翌日。

 今日の昼休みも蓮水の机を囲むように人だかりができている。

 聞こえてくる話の内容は、昨日よりも踏み込んだ質問が多い。


 アイドル時代のあれこれ、引退理由の真偽、彼氏の有無などなど。

 それらに蓮水は一本線を引いた態度で淡々と答えている。


 ゲーセンで強く再戦を望んできた人物と同じとは思えない。

 キャラを使い分けていると言われればそれまでだけど。


「編入生様は二日目も人気者ですなあ」


 一緒に昼飯を食べていた男子、矢車やぐるま桐生きりゅうが蓮水を横目で眺めつつ、口笛でも吹きそうな調子で呟いた。

 今日も今日とて飄々としたイケメン面が板についている。


 学校でもゲームばかりしている地味男子の俺と違い、高校からの友人である桐生は女子に大層モテる。

 週に一度は告白されるらしく、顔次第で受けているのだとか。

 つまりは彼女が頻繁に入れ替わる。

 人によっては不誠実と思うかもしれないが、桐生曰く「学生の恋愛なんてこんなもんでしょ」とのこと。


 そんな恋愛をしていたら女子からは恨みを買うはず。

 けれど、意外にもそうなっていない。

 桐生は別れ方が上手いと言っていたけど、本当かは怪しいところだ。


 まあ、軽い言動が目立つものの裏切るような真似はしないし、その辺はちゃんとケアしてるのかもな。


 そんな桐生も当然のように蓮水へ興味を持っているらしい。

 様子見に徹している理由まではわからないけど、そのうち接触するつもりだろう。


「ありゃ告白祭りになるのも時間の問題だな。元アイドルの美少女……誰だって気になると思うんだが、遊馬はどうなのさ」

「別に。ゲームで忙しい」

「お前本当に男か? ゲームより青春を謳歌しろよ」

「親かよ。誰が何を軸に生きていようと勝手だろ」


 何度したかわからない会話を重ね、視線を机に置いたスマホへ。

 昼休みに駄弁りながらソシャゲのデイリーを片付けるのが俺の日課だ。


「けどよ、遊馬も流石に蓮水のことを可愛いと思うよな?」

「一応」

「興味なさそうな返事だこと」

「どうせ関わらないんだから気にするだけ無駄だ」

「でもクラスメイトだぞ? ワンチャンあるかもしれないだろ?」

「桐生が言うところのワンチャンを俺が望んでないって話だよ」

「張り合いのない奴だなあ」


 処置なしとばかりに肩を竦める柳をよそにデイリー消化。

 ガチャの新キャラは来週実装だったかな?

 溜めてある分の石で引ければいいけど――


「竜胆さん、昼食中にお邪魔してすみません。少しよろしいですか?」


 すぐ隣から届けられる、落ち着いた女子の声。

 顔だけで振り向けばクラス委員長、桔梗ききょうしずくが立っていた。


 桔梗はクラス委員長に選ばれるのも納得なほど優秀な女子生徒だ。

 成績優秀で品行方正、テストでも常に上位に名を連ね、生徒のみならず教師陣からの信頼も厚い。


「どうしたんだ?」

「急なお話で申し訳ないのですが、放課後に蓮水さんの学校案内をしてもらいたいのです。私が案内できればよかったのですが、今日は都合がつかなくて……」

「編入生の学校案内なら俺にやらせてくれよ~」

「桐生は黙っていてください」

「え~雫のケチ~」

「ケチで結構。桐生に任せたら蓮水さんに迷惑が掛かります」

「ひでえ評価。幼馴染なんだからもうちょい優しくてもいいだろ……遊馬もそう思うよな?」

「妥当だな」


 肩を組もうとしてきた桐生を払いのける。

 桐生と桔梗は幼馴染らしく、こういったやり取りを目撃する機会が多い。

 まったく正反対だと思う二人が一緒にいるのはなんとなく不思議だが、意外と相性は悪くないのかもしれない。


 それはともかく蓮水の学校案内か。

 ゲーセンに行く約束をしていたけど、蓮水はその前に終わると考えたのだろう。


「どうして俺を代役に?」

「部活動に所属していない人の中で一番信用できるのが竜胆さんだと思いまして。女子は予定がつかず、男子は……わかりますよね?」

「案内どころじゃないだろうな。でも、俺も一応男子なんだが」

「竜胆さんはそもそも異性に興味がなさそうなので。仮に彼女がいたとして、彼女とゲームどちらかを選べと迫られたらどちらを選びますか?」

「ゲームだな、間違いなく」

「そういうことです」


 納得はしたけど釈然としない。

 信頼されていると思えばありがたいが、少々特殊過ぎやしないだろうか。


 しばし考え、結論を出す。


「蓮水がいいなら俺は構わない」

「そう言ってもらえると助かります。相談してきますので少々お時間をください」

「雫、俺も一緒に案内したらダメ?」

「ダメです。安心してくださいね、竜胆さん。このバカは私が責任をもって連れ帰りますから」

「俺はペットか何かかよ」


 そこまでしなくても、と思うけど、幼馴染故の信頼か。

 そっち方面で振り切れているのは面白さすら感じる。


 桔梗が蓮水の方へ戻るのを見届け、はあと桐生がため息を零した。


「幼馴染ってのを抜きにしても横暴だと思わんかね、遊馬さんや」

「日頃の行いの賜物だろ」

「まるで俺が悪人みたいじゃないか」

「彼女を頻繁にとっかえひっかえは世間的に悪人側だと思うぞ。てか、そんなことをしてる奴が幼馴染な桔梗に正直同情する」

「マジトーンで言うなよ見て見ぬふりをしていた申し訳なさを意識するから」

「その割に桔梗とは付き合ってないんだろ?」

「あいつが俺のこと好きなわけないだろ。性格も全然違うし。いくら女癖の悪い俺でも、俺のことを好きじゃない奴を強引に彼女にするのは気が引ける」


 肩を竦めて桐生が答える。

 桔梗の内心は測れないけど、幼馴染とはいえ嫌いな人と高校生にもなってまで関わろうとするだろうか。


 まあ、俺が変に口を出しても仕方ない。

 その手の経験はまるでないから見当違いの可能性は大いにある。


「それよりも遊馬は学校案内を上手くやれよ? もしかしたらもしかするかもしれないぜ?」

「興味ないって言ってるだろ」


 学校案内よりもゲーセンで再戦する予定の方が大事だ。

 今日も勝ってこその完全勝利。

 そうすれば気分よく音ゲーに励めるし。


「そういうこと言ってる奴がいざとなると嵌るんだよなあ」

「何が言いたいんだよ」

「別に? 強いて言うなら童貞卒業は出来るときにしておけってくらいだな」


 本当に無駄なお節介だな。

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