ヘルドゥラの神々:漆黒の女王

渡弥和志

プロローグ

 木剣がぶつかり、乾いた音が中庭に響いた。

 少年たちの息は荒く、額には汗が滲んでいる。

 幾度となく打ち合わされる剣。


「そこだ、ガルド」


 父クレドの声に応じるように、ガルドの剣が一歩前に出た。

 辛うじて受け止めたヴァルスは歯を食いしばり、力任せに踏み込む。


 次の瞬間、負けじと押し返したガルドの剣が逸れ、その額を打った。


「……っ」


 倒れかけたヴァルスの腕を、誰かが掴んだ。

 姉、カルラだった。二人よりも少し年上の少女。細い指先で傷口を押さえ、治療を始める。


 ガルドは心配そうに、その小さな傷口を見る。


「ヴァルス……大丈夫か。ごめん」

「……謝るなよ。お前の勝ちだな」


 二人を見て、カルラは困ったように眉を下げた。


「もう……二人ともやりすぎよ」


 クレドは安堵したように息をつく。


「次代の領主と騎士団長は頼もしいな。メドゥルよ」


 ヴァルスの父、メドゥルは視線を沈めた。


「……左様で」



 この中庭で芽吹いたものが、やがて国の行く末に影を落とすことなど、まだ誰も知る由もなかった────

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