第35話 誤解の朝


朝。

街門の辺りが少しずつ明るくなり、

人々の足音が増え始めた。


アキトは体を伸ばしながら起き上がる。


「……うぅ……固い…… 痛い……」


石の上で寝た背中が痛む。


(早くギルド行って……核を売って……

今日こそベッドで寝たい……)


そう思いながら立ち上がると──


「おい、まだここにいたのか」


昨日、声をかけてきたあの男が

ギルド方向から歩いてきた。


アキトは反射的に身構えた。


「……何の用ですか」


警戒が声に滲む。


男は少し目を丸くした。


「いや……別に。

昨日、あのまま野宿すると思わなかったからな。

ほら──」


男は胸元の革バッジを見せた。


《ギルド補佐員》


「……え?」


「昨日、声をかけたのは……

“寝場所を知らない新人が夜に歩くと危ない”からだ。

宿はギルド提携の安い部屋があってな。

案内しようとしただけだ」


アキトは言葉を失った。


(……俺……完全に疑ってた……)


男は肩をすくめる。


「まあ……疑うのも無理はないけどな。

新人はだいたい一度は騙される」


図星すぎて何も返せない。


男は続ける。


「ギルド、もうすぐ開くぞ。

昨日の荷物、売りに来るんだろ?」


アキトは、思わず握っていた袋を見下ろした。


(……盗もうとしてない。

普通に心配してくれてただけ……?)


男はアキトの戸惑いに気づき、

少しだけ優しい声で言った。


「信用しろとは言わん。

けど──

“全部疑ってたら冒険者は続かないぞ”」


その言葉は、

アキトの胸に静かに刺さった。


男はギルドへと歩いていく。


アキトはしばらく立ち尽くし、

そして深く息を吐いた。


「……行くか」


手に持った袋の重さが、

少しだけ違って感じられた。


昨夜より、

心がほんの少しだけ軽い。


アキトは歩き出した。


ギルドの朝が、始まろうとしていた。

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