第29話 水の気配と青い魔術書


翌朝。

少し早めにギルドへ着いたアキトは、

受付にいるセリアへまっすぐ向かった。


「セリアさん、相談したいことがあって……」


セリアは書類を置いて向き直る。


「どうされました?」


アキトは、昨日から胸に引っかかっていた

“火の魔術の最中に混ざった冷たい感覚”を丁寧に説明した。


・火の流れに“水の気配”が混ざった

・詠唱は成功しているのに、技名を言っても発動しない

・手のひらが冷たく震えた


セリアは真剣に頷いた。


「……それ、水属性の魔力が動き始めています」


アキトは大きく息を飲む。


「水……!」


「はい。ただ、技名を知らないと絶対に発動しません。

水魔術は火とは違い、中級以上になると名称も複雑です。

もし本格的に学びたいなら……

“月読魔術書房”がおすすめです」


アキトは決意の表情で頷いた。


「行ってみます!」


──街の中央通り。


古い木の看板に“月読魔術書房”の文字。


扉を開くと、魔力の気配とインクの香りがふわりと広がる。


「いらっしゃい。冒険者かな?」


白髪の店主が静かに微笑む。


「水魔術の……技名の基礎を学びたくて」


「おお、属性が動き始めたんだね。

なら、これがいい」


手渡された青い本には、


『初歩の水魔術と技名の仕組み』


と書かれていた。


アキトがページを開くと──


《ウォーターボルト》

《アクアドロップ》

《ウォーターライン》

《ミストコール》

《アクアシールド》


水の技名がずらりと並んでいた。


(……これを知らなきゃ、水魔術は発動しないんだ)


「この本……いくらですか?」


「初心者向けだから **18G** だよ」


アキトはすぐ銀貨を取り出す。


(所持金116G → 18G → **残金98G**)


「ください!」


店主は丁寧に包んで渡した。


「水は“形の維持”が難しい。

慌てず、自分のイメージを育てるんだ。

焦れば焦るほど崩れるからね」


アキトは深く頷いた。


店を出た瞬間──

手のひらの奥で、

昨日より強く“冷たい魔力”が震えた。


(……絶対に覚える)


青い本を抱えて、アキトは空を見上げた。


新しい魔術の扉が、確かに開き始めていた。

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