第27話 技名と揺れ始めた魔力


街へ戻る途中の小道。

アキトは右手を見つめながら、さっきの練習を思い返していた。


(魔力の流れ……昨日よりはっきりしてる)


手のひらの奥で、

熱と一緒に“もうひとつの気配”が小さく揺れていた。


火とは違う。

少し冷たくて、透明で……

水面みたいな感覚。


「……なんなんだろこれ」


試しに詠唱だけを小さく唱えてみる。


「火……熱……灯れ……」


手のひらに温かさは集まる。

だが──


「……やっぱり出ないか」


当然だった。

アキトは“あること”を思い出す。


(そういえば……

ギルドの初心者講習で言われてたよな……)


――“詠唱の最後に、技名を必ず言うこと”

――“魔術は“技として認識させないと形成されない”


セリアの声がよみがえる。


『魔術は【技名】を口にしないと形になりません。

詠唱はあくまで魔力を整えるためのもの──

技名で初めて魔術が“完成する”のです』


アキトは苦笑した。


「そうだった……

俺、さっき技名なんて何も言ってなかったな……」


火の魔術なら、


《ファイアボルト》


水なら──


(……水の魔術なんて、そもそも知らない……)


試しに、思いついたまま呟いてみる。


「……水……流れ……集え……

《ウォーターボルト》……とか……?」


技名をつけながら、手のひらに魔力を集める。


すると。


ビリ……ッ。


一瞬だけ、

手のひらの奥で“冷たい圧力”が動いた。


「っ……!」


水が出るわけじゃない。

形にもならない。


けれど──確かに **反応した**。


(……今の、絶対に水の魔術だ……

でも、うまくいかなかったのは……技名が違う?

それとも詠唱が合ってない……?)


魔術には“自分のイメージ”が重要だと習った。


火なら熱と灯り。

風なら流れと軽さ。

水なら──


(……水が“落ちる”とか、“流れる”とか……

そういうイメージが必要なんだ)


アキトはもう一度、ゆっくりと息を吸う。


「……水……」


しかしすぐに魔力がほどけてしまった。


焦りはなかった。


(少なくとも、火以外の魔力を感じた。

それだけで十分だ)


その時、遠くの丘の方から風が吹いた。


ヒュウ……


冷たい風。

優しいのに、どこか不気味な揺れ。


(……洞窟の奥の風……

あれと同じだ……)


アキトは口を引き結び、拳を握る。


「よし……

今は形にならなくていい。

でも絶対に……次はもう一歩進める」


そう小さく呟いて、街道を歩き出した。


新しい魔術はまだ“影”のまま。

でも、その影は確かに動き始めていた。

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