第26話 軽い依頼と魔術の手ごたえ


掲示板の前に立つと、

朝から貼り替えられた依頼書がいくつも揺れていた。


アキトは順に目を通していく。


『新米向け・街道の見回り補助 報酬:22G』

『薬草園の手伝い 報酬:15G』

『野ウサギ討伐(1~3匹) 報酬:24G』

『村の荷運び補助 初心者可』


(どれも今の俺でも行けそうだけど……

戦闘の感覚、ちゃんと掴みたいな)


アキトの目に“野ウサギ討伐”が止まった。


ウサギと言っても《ホロウサギ》という小型魔獣で、

素早いが危険度は低い。


(昨日のホロネズミよりはやっかいだけど、

レベル5になった今の俺なら……)


アキトは依頼書を取って受付へ向かった。


セリアが内容を確認しながら頷く。


「この依頼なら、アキトさんにちょうど良いと思います。

ウサギは素早いので、命中精度の練習にもなりますよ」


「……それ、やりたいです。

魔術の“当てる”練習をしたくて」


「では、気をつけていってらっしゃい」


アキトは小さく礼をし、ギルドを出た。


──街の外、小さな丘のある草原。


野ウサギがよく出る一帯は、

穏やかな風が流れていた。


アキトは棒を地面に立てて深呼吸をする。


「よし……まずは魔力の流れから、昨日より丁寧に……」


手のひらに意識を集中させると、

かすかに温かいものが集まってくる。


レベル4までは掴めなかった“魔力の鼓動”が、

ようやく輪郭を持ち始めていた。


(これが……レベル5の感覚……

魔力の動きが、少しだけわかる……)


その時、草がふるりと揺れた。


白い影が走る。


「来た……!」


ホロウサギだ。

小さな体なのに動きは鋭い。


アキトは体勢を落とし、目で軌道を追いながら詠唱に入った。


「火……熱……灯れ!」


《ファイアボルト》


火の粒が一直線に飛ぶ──が、

ウサギが横に跳ねて避けた。


(速い……!)


だがアキトはすぐ追撃に入った。


「もう一発……!」


次はウサギの進行方向を狙って撃つ。


火の粒が地面に触れ、

跳ねたウサギが後ろによろめく。


アキトは一気に距離を詰め、

棒で押し倒した。


「……っし!」


ホロウサギは動かなくなった。


胸が大きく上下している。


(当たった……!

狙って撃って、ちゃんと当たった……!)


倒れたウサギのそばには、

淡い茶色の毛束ホロ毛が落ちていた。


拾ってポーチへ入れる。


(昨日より魔術が扱いやすい……

魔力の流れがつかめれば、もっと……)


アキトはその場に腰を下ろし、

何度も詠唱の“感覚だけ”を繰り返した。


「火……熱……灯れ──

……うん。前よりずっとスムーズだ」


魔術を撃つたび、

手のひらの奥にある“芯”のような感覚が

少しずつ明確になっていく。


日差しの中、アキトはしばらく練習を続けた。


(レベル5……

やっとスタートラインに立てた感じがするな……)


今日の収穫は、ウサギ素材よりも

“できることが増えた実感”だった。


アキトはポーチを締め、立ち上がる。


「よし……ギルドに戻ろう。

今日の収穫、ちゃんと報告しないと」


成長の手ごたえを胸に、

アキトは丘を下りて街へ向かった。

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