第25話 ギルドでの報告と、揺らぐ風鳴き洞の影


ギルドの扉を押すと、

朝の空気と混じるようにインクの匂いが広がった。


受付前には冒険者が数人、

朝一の依頼を受けようと並んでいる。


その中で、セリアはアキトに気づくと

柔らかい笑みで手を挙げた。


「アキトさん、おかえりなさい。

採集依頼、無事に終わったようですね」


「はい! 薬草のほかに……ちょっと素材も拾ってきました」


アキトはポーチから丁寧に袋を取り出し、

カウンターに並べた。


・水辺薬草 ×8

・ホロネズミの白毛 ×1束

・ミナライト片 ×1個


セリアはひとつずつ触れて確認しながら、

小さく驚きの声を漏らした。


「……まあ、ミナライト片まで……!

小川で見つけるのは珍しいですよ。

とても綺麗な状態です」


「これは……売れますか?」


「もちろんです。

魔術師や錬金術師が好んで買いますので」


査定が進む。


「では順に、

薬草:10G

白毛:3G

ミナライト片:12G

──合計 **25G** になります」


アキトは両手で金貨の袋を受け取り、軽く頭を下げた。


(25G……! 小川の依頼でも、こんなに稼げるんだ……)


「アキトさん、少し座られますか?」


セリアが静かに声をかけてきた。


ただの雑談とは違う、

どこか気になる言い方だった。


アキトは頷き、受付横の小さなベンチへ移動する。


セリアは書類を一枚持ちながら、

声を落として言った。


「……風鳴き洞の件ですが」


アキトの心臓がわずかに跳ねた。


「最近、異変の報告が増えてきています。

特に“奥のほうから魔力が吹き上がるような気配がある”と」


「吹き上がる……」


「はい。

本来“初心者向け”だったはずの洞窟ですが、

ここ数週間で魔力濃度が変わってきているようです」


アキトは無意識に、昨日拾ったミナライト片を思い出した。


(……あれも、魔力と関係あるのかな)


セリアは言葉を続ける。


「まだ確定ではありませんが……

近日、上位冒険者たちによる“正式な再調査”が行われる予定です」


「再調査……」


「ええ。

ただ、これはアキトさんたち初心者への依頼ではありません。

危険度が一段階上がる可能性がありますから」


そう言いながらも、

セリアはアキトの表情をじっと見ていた。


「……ですが、アキトさん。

もし、もう少し力をつけて……

自分が行ける、と思えるようになったら……」


アキトは小さく息を呑んだ。


セリアの瞳に、心配と期待が入り混じっている。


「その時は……私に相談してください。

風鳴き洞は、あなたとリオさんが最初に踏み込んだ場所です。

きっと意味があります」


アキトは拳を握った。


「……はい。

まだすぐには無理ですけど……

ちゃんと力をつけて、また行きたいです」


セリアは優しく笑った。


「その気持ちがあれば、きっと大丈夫です」


受付に冒険者が増えてきたため、

アキトは立ち上がり、軽く頭を下げた。


(風鳴き洞……

やっぱり“ただの初心者ダンジョン”じゃなかったんだ)


胸の奥に、不安とワクワクが同時に広がる。


そして、アキトは掲示板の前へと歩き出した。


次の依頼を探すために。

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