第23話 夕食の温もりと、揺らぐ魔力、次の依頼へ


ギルドを出ると、リオが大きく伸びをした。


「よし! 腹減った! アキト、今日も飯いくぞ!」


「うん、行こう!」


二人は宿屋「ほころび亭」に戻り、

温かい夕食を注文した。


今日は豪華ではなく、普通のプラン。

それでも湯気の立つスープと焼きたてパンの香りは、

一日の疲れをゆっくり溶かしていく。


「はぁ……生き返る……」


アキトがスープを飲んでつぶやくと、

リオが笑いながら肉を割いた。


「アキト、今日レベル5になっただろ?」


「うん……やっと、って感じだけどね」


「いやいや、影獣倒してのレベルアップは普通にすごいぞ。

洞窟でも、今日の護衛でも……お前、めちゃ成長してるって」


アキトは少し照れながらも嬉しくなった。


「……でも、古老が言ってた“魔力が薄い”ってやつ……

ちょっと気になってて」


リオはパンをちぎりながら、肩をすくめる。


「魔力が薄い=弱い、じゃないからな。

むしろ、薄い方が伸びやすい体質だ。

俺の知り合いにもいたよ。

魔力ゼロから始まって、最終的には大魔術師になったやつ」


「……ほんとに?」


「おうよ。だから焦るな。

今のペースで十分だ。アキトは伸びる」


胸の奥がじんわり温まる。


(……大丈夫なんだ。

弱くても、ちゃんと伸びてる……)


食後、アキトは外の風に当たりたくて宿の前へ出た。


空は雲が薄く伸び、星がちらほら覗いている。


……ふと、北の空気がざわりと揺れた。


「……っ?」


風鳴き洞の方向。

昨日感じた“気配”にも似ている。


リオが横に来て、小さく呟く。


「感じてるんだな、アキトも」


「……うん。

洞窟の奥……あの光苔の先に、何かあったよね」


リオは真剣な目で北の方を見ていた。


「今の俺たちじゃ、まだ手が届かないだろうけどさ。

いつか行かなきゃならない場所だと思う」


「……うん。絶対いきたい」


アキトは拳を握った。


風が静かに吹く。

その揺れは、まるで“呼ばれている”ようでもあった。


──翌朝。


アキトはほどよく疲れを抜いた体でギルドへ向かった。

宿の主人マルタがくれた、朝焼け色のパンも美味しくて元気が出る。


ギルドへ入ると、セリアが朝の書類をまとめていた。


「おはようございます、アキトさん。

最近、本当に頑張っていますね」


「ありがとうございます……! 今日も依頼を探しに来ました!」


アキトは掲示板を見上げた。


・素材採集

・軽い討伐

・初心者向け護衛

・村間の運搬補助

・商人同行の短期護衛依頼


どれも今のアキトが挑めそうなものばかりだ。


少し迷いながら、一枚の依頼に目が留まった。


『小川沿いの採集依頼(報酬:30G)

※弱い魔物のみ・初心者向け・単独可』


(……これなら、魔術の練習もしながら行けるかも)


セリアが横から説明してくれる。


「この依頼、のんびりですが“魔術の精度を上げる”のに向いてますよ。

小型の魔物が出ますが、アキトさんなら問題ありません」


アキトは依頼書を取り、深く頷いた。


「じゃあ……これ、受けます!」


「はい。今日も気をつけてくださいね」


ギルドを出ると朝の風が頬を撫でる。


(レベル5……

本当に少しずつだけど、強くなれてる……)


小川の方へ向かう道は、

今日の自分を確かめるための一歩に見えた。


「よし、行こう。次の冒険へ!」

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