第20話 豪華な夕食と、洞窟の謎、そして次の一歩
宿屋「ほころび亭」に戻ったアキトは、
ポーチの中に残った《86G》を握りしめながら扉を開いた。
今日は今までで一番稼いだ。
少しくらい贅沢してもいい。
カウンターにいた宿の主人──マルタが笑顔で迎えてくれた。
「おや、アキトじゃないかい。今日はいい顔してるねぇ!」
「今日……ちょっと豪華な夕食が食べたくて……
なにか、おすすめってありますか?」
言うと、マルタの目がぱっと輝いた。
「あるよ。“豪華夕食付きの宿泊セット”ってやつだ。
通常は宿泊50Gに食事50Gだけど……
**冒険者割引で全部込み《65G》でどうだい?**」
「……65G!? 安すぎじゃ……」
「頑張って帰ってきた冒険者にくらい、大サービスだよ」
アキトは感激して頷いた。
「お願いします!」
マルタは満足げに厨房へ戻り、
ほどなくして大皿を抱えて戻ってきた。
・香草で焼いたロース肉
・じっくり煮込んだ野菜スープ
・焼きたての大きなパン
・果実を使った甘いソース
・温かいハーブ茶
思わず声が漏れる。
「……すご……!」
ちょうどその時、リオが宿に入ってきてアキトの皿を見て笑う。
「おお! 贅沢してんじゃねぇか!
今日一番頑張った男の飯だな!」
「リオも食べる? 一緒にどう?」
「おう、もちろん!」
ふたりは向かい合って夕食をとった。
肉は香ばしく、スープは優しい味で体に沁みる。
「……うま……こんなの食べたの久しぶりだ……」
アキトがしみじみ呟くと、リオは笑った。
「アキト、今日の洞窟……正直ビビってただろ?」
「ビビるよ! 音が怖すぎるんだって……!」
「でもちゃんと戦った。最後のあれはすげぇ火力だったぞ」
「……リオが支えてくれたおかげだよ」
ふたりはしばらく、今日の冒険の話をしながら食事を楽しんだ。
その後アキトは《65G》を支払い、
部屋に戻って布団の柔らかさに全身を委ねた。
「……幸せ……」
そのまま深く眠りについた。
──翌朝。
アキトはいつもより軽い体でギルドへ向かった。
結果、所持金は **21G** だけれど、満足感のほうが大きい。
受付にいたセリアが優しく微笑む。
「おはようございます、アキトさん。
昨日はよく眠れましたか?」
「はい! 本当に……ぐっすりです」
セリアは少しだけ顔を引き締める。
「風鳴き洞の件ですが……
最近“洞窟奥の魔力濃度が上がっている”という報告が入っています」
「……やっぱり……」
「ええ。まだ危険と断定はされていませんが、
いずれ“再調査依頼”が正式に出るかもしれません」
アキトは胸の奥が少し熱くなった。
(あの奥……気になってるんだよな……)
「その時は……また行きたいです」
セリアは嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ……その言葉が聞けると思っていました」
アキトは掲示板へ向かい、
朝一で貼られた依頼書の束を眺める。
・薬草摘み
・スライム討伐
・迷い羊の保護
・初心者向け護衛依頼
その中で、一枚の紙が目に入った。
『木工職人の護衛依頼(報酬:45G)
※初心者可・短距離・荷馬車同行』
アキトは直感的に思った。
(……これなら、今の俺にもできる)
セリアがそっと近づく。
「アキトさん。護衛の基本が学べておすすめです」
アキトは依頼書を手に取り、笑みを返した。
「これ、受けます」
「はい。どうか今日もお気をつけて」
アキトは胸の前で拳を握り、
ギルドの扉を押し開けた。
「……よし。今日も頑張ろう」
光の差す朝の道を、
新しい冒険へ向けて歩き出した。
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