第18話 洞窟奥の光と、うごめく影


洞ウサギを退けたあと、アキトとリオは洞窟のさらに奥へと進んでいった。


ひゅう……ひょう……ぉぉ……


風の音が壁に反響し、方向感覚が狂う。

だが、リオが壁の“風で磨かれた筋”を確認しながら進むので、迷わずに済んでいた。


しばらく歩くと、洞窟奥に微かな光が揺れているのが見えた。


「……あれ、なんだ……?」


アキトが立ち止まると、リオも目を細める。


「光石……じゃないな。もっと柔らかい……生きてる感じの光だ」


二人は近づき、光の正体を確かめた。


――洞窟の壁一面に広がる、

淡く脈打つ青い“光苔”。


呼吸しているかのように光を明滅させ、

風が吹くたびに薄く波打つ。


「……綺麗だけど、不気味だな」


「魔力反応があるな。これ、ただの苔じゃない」


アキトが手を伸ばしかけて――リオが慌てて止める。


「触るな。光苔は高濃度魔力吸収性の可能性がある。

下手に触ると“魔力を吸われる”」


「うわ……危なかった……!」


そう言いながら、アキトは洞ウサギの死体に目を向けた。


「……素材、取れる?」


「お、分かってきたなアキト。

ウサギは“柔毛”と“額の突起”が使える。魔術触媒だ」


リオの説明通り、アキトはウサギから


・**洞ウサギの柔毛(初級触媒)**

・**小突起(低級魔具の素材)**


を丁寧に回収していく。


「これ……売れるの?」


「売れる。小物だけど、1〜2Gにはなる」


(……大事だな、こういうの……)


素材を内ポーチに入れたあと、

アキトは光苔の奥へ続く狭い通路を見つめた。


「……ねえ、リオ。あそこ……なんか気配しない?」


「する。魔力が……揺れてる。小型だけど、動物っぽくない」


緊張が走る。


二人が慎重に歩を進め――

その瞬間、暗闇が跳ねた。


ガァッ!!


洞ウサギより一回り大きい、

鋭い爪と牙を持った小型魔獣洞窟ドレイクが飛び出してきた。


「うわっ!!?」


「来るぞ!」


アキトは慌てて後退しながら魔術を構える。


「火……熱……灯れ!」


《ファイアボルト》


火の粒が命中するが、ドレイクは怯まず突っ込んでくる。


「効いてるけど弱い! 気をつけろ!」


ドレイクの爪がアキトに迫る。


「やばっ……!」


足元の石でバランスを崩し、後ろへ倒れそうになった瞬間、


「《軽癒:ヒールブリーズ》!」


リオの回復魔術が体を持ち上げ、転倒を防いだ。


「ありがとう!!」


「まだいける! 焦るな!」


アキトは息を整え、再び手を前に突き出す。


「灯れぇぇ!!」


二発目が顔面に直撃。

ドレイクがたたらを踏んだところへ――


「今だアキト、行けぇぇ!!」


「うおおおおッ!!」


三発目の《ファイアボルト》が腹部に命中し、

ドレイクが崩れ落ちる。


洞窟に静寂が戻った。


アキトとリオは肩で息をしながら顔を見合わせ――


「……勝ったぁ……!」


「いい連携だったな、アキト!」


二人はしばらく息を整えたあと、

倒れたドレイクへ近づいた。


「素材、取っとくぞ。ドレイクは地味に高い」


リオが器用に解体していく。


・**洞窟ドレイクの牙(4G)**

・**洞窟ドレイクの爪(3G)**

・**薄皮膜(耐魔コーティング素材・7G)**


「おお……結構取れるんだ……!」


「しかも軽い。持って帰る価値あるぞ」


アキトの内ポーチは徐々に重くなっていく。


(……素材を拾うって、まじで大事なんだ……

これだけでスライム数匹分の価値がある……!)


素材を回収したあと、

二人は再び光苔の奥を見つめた。


通路の奥――

青い光がわずかに強まっている。


「……リオ。光、あっちから強くなってない?」


「なってるな。原因は絶対あっちだ」


リオが真剣な声で言う。


「この洞窟……“ただの初心者ダンジョン”じゃねぇぞ。

魔力の源の気配が、奥にある」


アキトは息を呑んだ。


いまの自分には、

それが“何か分からない怖さ”と

“知りたい気持ち”の両方をくすぐってくる。


「……行ってみよう。まだ進める」


リオは笑った。


「いい返事だ。相棒、行くぞ」


二人は光苔の奥へ。

洞窟の本当の姿へと進み始めた。

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