第17話 風鳴き洞の入口と、初めての共闘


草原の西へ向かって歩くうち、地形が少しずつ岩場へと変わっていった。


やがて丘を越えたところで――

洞窟の入口が、ぽっかりと口を開けていた。


「……ここが、風鳴き洞……」


黒い穴の奥から、ひゅう……ひゅう……と風が流れてくる。

それはまるで、洞窟自体が息をしているような、妙に生々しい音だった。


リオが肩をすくめる。


「な? 初見はちょっとビビるだろ」


「……うん。これ、想像してたより怖い……!」


入口の周りには草一本生えておらず、

風が砂利を転がす音が、どこか“拒まれている”ようにも聞こえた。


(でも、ここを越えなきゃ強くなれない……!)


アキトは短く呼吸し、洞窟へ一歩踏み出す。


──瞬間。


音の方向が突然わからなくなる。


「……え?」


風の流れは一定のはずなのに、

どこから吹いてきているのか感覚が狂う。


左から吹いた気がしたと思えば、

次の瞬間には背後から聞こえる。


ひゅう……ひょう……ぉぉぉ……


風が“鳴いている”というより、

何かが泣いているようにも聞こえ――


(――これが、音が迷うってやつ……)


リオが前に出て、軽く笑った。


「焦るな。ここは音が跳ねやすいだけだ。

慣れれば普通に歩ける」


「リオは……怖くないの?」


「怖いよ。でも慣れれば、風の強さで向きを判断できる」


そう言って、リオは洞窟の壁に触れた。


「ほら、こっち。風が削った跡があるだろ。

入口から奥へ向かってる“流れ跡”だ」


よく見ると、壁には薄く磨かれたような筋があった。


(なるほど……これなら迷わず進める……)


二人は慎重に奥へ進んでいく。


すると――


ガサガサ……。


小さな影が、足元を横切った。


「っ……!」


アキトが身構えた瞬間、リオが低く呟く。


「来るぞ、アキト」


暗がりから、丸い耳と赤い目がぬっと現れた。


小型魔物洞ウサギ

臆病だが、狭い場所での跳躍力は侮れない。


ぴょん、と跳ねた瞬間――

アキトの心臓が跳ねた。


「火……熱……灯れ……!」


《火:ファイアボルト》


火の粒が飛び、洞ウサギの横をすり抜け、壁を焦がす。


「うわっ、外した!?」


「焦るな、アキト! 倒せなくても引きつければいい!」


洞ウサギが跳躍し、アキトに迫る。


「わっ!? 近い近い近い!」


リオが杖を構え、呟く。


「《軽癒:ヒールブリーズ》!」


薄い緑の風がアキトの体を包む。

体が軽くなり、反射的に一歩横へ動けた。


洞ウサギが空中で軌道を外し、転がる。


アキトは叫ぶ。


「灯れぇぇぇ!!」


二発目の《ファイアボルト》が命中。


洞ウサギはふにゃりと崩れ落ちた。


洞窟に静寂が戻る。


肩で息をしながら、アキトは呟いた。


「……協力って、すごいな……。

俺ひとりだったら、今の絶対……無理だった……」


リオは笑ってアキトの肩を叩いた。


「お前の魔術はちゃんと当たってる。ビビりながらでも十分だよ」


アキトは小さく息を吐いた。


怖かった。

でも、倒せた。

二人でなら、前へ進める。


洞窟の奥へと続く暗闇を見つめ、アキトは再び歩き出した。


風鳴き洞の調査は、まだ始まったばかりだ。

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