第15話 初めての宿と新しい朝


夕暮れの街を歩きながら、アキトは手の中の小袋を握りしめた。


スライム討伐で稼いだ24G。

そしてウルフ追い払いの報酬30G。


手持ちは合わせて《54G》。


(……これで、宿に泊まれる。やっと……)


胸がじんわりと温かくなる。


──宿屋「ほころび亭」


木の扉を開くと、スープの香りがふわっと漂ってきた。

カウンターの奥から、ふくよかな中年の女性が顔を出す。


「いらっしゃい。……あ、新人さんだね?」


「あの、一泊お願いします」


女性は料金表を指さした。


《一泊:50G(夕食付き)》


アキトは震える手で小袋から硬貨を取り出し、差し出した。


「お願いします……!」


「はいよ。大変だったろう? ご飯もつけておくよ」


案内された席には、湯気の立つスープと焼きたてパンが置かれていた。


アキトは一口食べた瞬間、思わず目を閉じた。


「……うま……」


野宿、水だけの夜、盗まれた日。

そんな苦しい日々が一気に溶けていくような味だった。


「細い顔してるし、ちゃんと食べるんだよ」


「はい……本当に、ありがとうございます」


食事を終えた頃、隣の席の青年が声をかけてきた。


「ギルドで聞いたぞ。“レベル4でウルフ追い払い成功した新人がいる”ってな」


「見てたんですか?」


「受付前でちょっとな。俺はリオ。回復魔術の修行中。

またどこかで会うかもな」


気さくな笑顔に、アキトも小さく笑った。


「アキトです。よろしくお願いします」


軽く挨拶を交わし、部屋へ向かう。


──客室。


布団。

柔らかい枕。

木のぬくもり。


アキトは布団に体を沈め、思わず叫ぶ。


「……幸せすぎる……」


そのまま、深い眠りへ落ちていった。


──翌朝。


目を開けた瞬間、アキトは驚いた。


(……体が軽い……!)


久しぶりに“ちゃんと眠れた”感覚だった。


階下に降りると、宿の主人が笑顔で小さなパンを手渡した。


「新人サービスさ。頑張りな」


「ありがとうございます!」


パンを齧りながらギルドへ向かう。


──ギルド。


朝の掲示板に、新しい紙が貼られていた。


『草原西の“風鳴き洞”調査依頼(報酬:40G)

※初心者可・危険度低』


(洞窟……)


昨日より少し強くなった自分だからこそ、

その先が気になった。


アキトは静かに息を吸い込んだ。


「……行ってみよう。次の一歩へ」

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